Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
 タクシーの後部座席で固まったままの千紗子を雨宮がチラリと横目で見る。

 「俺は君の上司だから、部下の住所くらい把握してる。大体の場所くらいだけどな。それと、タクシーを使ったのは部下を安全に帰宅させる為と、自分が帰宅するのが楽だからだ。」

 (少し気まずそうな表情に見えるのは私の気のせいなのかな。)
 なんとなくその台詞すら言い訳っぽく聞こえるなんて……。)

 そんなことを考えてしまって、思わずクスリと小さな笑いが漏れてしまう。

 「なんで笑う?」

 ちょっと不貞腐れたような表情でこちらを見るから、耐え切れず本格的に笑ってしまった。

 「ふふふ、すみません、笑ってしまって。なんだか図書館にいるときには見られない雨宮さんの姿を見てしまったら楽しくなってしまって。」

 「悪趣味だな。」

 そう呟いて反対の窓の方を向いた彼の耳が心なしか赤い。

 「アルコールのせいですか?耳が赤いですよ。」

 なんとなく楽しくなった千紗子の口からは、いつも言わないような言葉がするすると出てくる。
 雨宮は目だけでチラリとこちらを見て

 「君はアルコールが入ると意地悪になるみたいだな。」

 と千紗子を睨んだ。

 「すみません。……くふふふっ」

 調子に乗っているかな、とは思ったけれど、職場では見たことのない上司の姿についフランクになってしまい笑い声が堪えられなかった。
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