Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~

 優しい瞳が千紗子を見下ろしていた。
 その瞳に見つめられると、千紗子は自分が幼い少女に戻っていく気がする。
 なんでも許してくれそうな温かな瞳。
 それは千紗子を愛し甘やかし、すべてを溶かしてしまう。

 「………ダメに、……なるかもしれません…………」

 「え?」

 「私、…ダメな子になりそうなんです。」

 思っていることを、正しく相手に伝えるのはとても難しい。くじけそうになるけれど、千紗子は一言一言を丁寧に紡ぐ。
 恥ずかしくて頬が熱くなってくるが、一彰から目を逸らさないように体に力を入れる。

 「熱を出して寝込んでいる間、沢山お世話になってしまって、甘えっぱなしだったと、本当に申し訳ないと思ってます。」

 「ちぃ、それは、」

 「一彰さんと一緒にいるのは、本当に心地良くて、…楽しいです。でも、いつも甘やかされてばかりで…私、それに慣れてしまうのが、…きっと怖いんです。」

 一彰の言葉を遮るように言った千紗子の言葉に、一彰が眉をひそめる。

 今まで千紗子自身にもよく分からなかった、漠然とした不安。
 それが今、はっきりとした形になって浮かび上がってくる。
 自分が口から出す言葉を自分で聞きながら、千紗子は「ああ、そうだったんだ…」と実感を持ち始めていた。

 「怖い?どうして?」

 「甘やかされて、…それが当たり前になってしまって、もし…もしも、また……」
 
 そこまで言ったところで、千紗子は唇をグッと噛みしめた。
 
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