Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
「ゆうべの俺とのこと、千紗子はどこまで覚えている?」
真っ直ぐな瞳にそう問われたけれど、千紗子は「どこまで」と答えることが出来ない。
深い悲しみと絶望から呆然としていた千紗子の記憶は曖昧で、細かいことなんて憶えていない。
記憶にあるのは、与えられた刺激にただ身を委ねて、これまで味わったことのない程の快楽に溺れたこと。
そして、それは全て自分が望んだ、ということ。
それだけが自分の中でハッキリしていることで、他のことはぼんやりとしていて、思い出そうとしても思い出せない。
実際、雨宮が千紗子のことを名前で呼ぶと言った時のことなどは、今も思い出せない。
「弱っている君に、あんなふうに触れてしまったこと、俺は後悔していない。」
視線を彷徨わせながら口ごもってしまった千紗子に、雨宮はハッキリと言い切った。
その強い口調に、彷徨っていた千紗子の視線が雨宮に戻る。
そこには、言葉と同じように強い意志を持った瞳があった。
「どうして…」
自然と、思ったことが口からこぼれ落ちる。
本来ならただの部下と上司である自分たちの間にあったゆうべの出来事は、一線は越えなかったとはいえ、完全に『男女の関係』と言えるものだった。
これからも同じ職場で働き続けるのに、気まずくなる可能性だって充分ある。
それを、雨宮ほどの人が『後悔していない』と断定するなんて、千紗子には理解できなかった。
大きな手が伸びて来て、千紗子の頬にそっと触れる。
驚いた千紗子が目を丸くした、その時。
「―――君が好きだ。」
「!!」
千紗子はハッと息を飲んだ。丸くなった目が更に大きく見開かれる。
「ずっと前から千紗子のことが好きだった。」
思いがけない雨宮の告白に、千紗子の頭は真っ白になった。