Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
 心臓が早鐘を打ち、体温が上昇する。
 何か言わなければならないのに、何を言っていいのか分からない。

 (雨宮さんが、私のことを、好き?)

 一年半も同じ職場で働いていたのに、千紗子は雨宮の好意に露ほども気付かなかった。
 千紗子には付き合っている恋人がいたし、それ以前に、誰もが振り返るくらいの端整な容姿を持った雨宮が、地味な自分を異性としてみることはない、と思い込んでいたのだ。

 (冗談、でしょ!?)
 
 「冗談でこんなことを言ったりしないよ、俺は。」

 またしても心の内を読まれた千紗子の頬に朱が差す。
 雨宮は千紗子の頬に当てた手で、彼女の輪郭をそっとなぞった。

 (私のこと、からかってるの…)

 「それにからかっているわけでもない。今の君にそんな酷いことをする男に見えるのか?」

 切なげな彼の表情に、千紗子の胸がキュッと苦しくなる。
 
 「でも、存外酷いヤツかもしれないな、俺は。弱った君に付け込んだんだ。君は俺に怒っていいんだ、千紗子。」

 濡れたように光る瞳を揺らし、懇願するようにそう言われて、千紗子の息は止まりそうになった。
 置き去りにされた小犬みたいなその瞳に、千紗子の胸は乱される。
 
 瞳を閉じて頭を左右に小さく振った。
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