Sweet Healing~真摯な上司の、その唇に癒されて~
 「千紗子はこういう服は着ないのか?好みじゃないとか?」

 千紗子を見下ろしながら雨宮が聞いた。

 「いえ、嫌いではないのですが…」

 答えながら自分が今着ているものを確認する。
 グレーのリブニットと黒の細身のパンツ、上から黒いロングコートを着ている。足元は仕事仕様の黒いローファーだから、一言で言えば地味。

 おしゃれが嫌いな訳ではないし、ファッション雑誌だってそれなりに読む。
 けれど、『見て気に入る服』と『自分に合う服』が必ずしも一致するわけではないことが、この歳になって分かるようになってきたのだ。

 千紗子はたどたどしく口を開いた。

 「こんな可愛らしい服が似合うようなタイプじゃないので。」

 「そんなことないぞ。俺はこの服は千紗子に似合うと思うけどな。試しに着てみたらどうだ?」

 「えっ!これを、私が?」

 「ああ。このワンピースを着た千紗子を俺が見たいんだけど。」

 「え、あの…ちょっと無理、です。」

 雨宮の勢いに押されつつも、千紗子がハッキリ断ると、雨宮は残念そうに肩を落とした。

 「そうか、残念だな。まぁ今は、千紗子の体調も良いとは言えないから、また次の機会にするか。」

 雨宮はそう言って、ショップの前からまた歩き出した。

 (次の機会って……)

 そんな機会が訪れることなんてもうないだろう、と千紗子は思う。

 (そうよ、これ以上雨宮さんを私のことに付きあわせられないわ。この近くにはビジネスホテルもいくつかあったはず…雨宮さんが何と言っても、この後ホテルに行こう。)

 千紗子は心の中でそう決めると、雨宮のすぐ後ろを着いて歩いた。
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