想い出には出来ない
その春、違う高校へ異動になった。

どこの学校にも桜は植えてあり、薄紅の花を目にする。

幸せに過ごしているのだろうか。

おぼろげな背影に答えがあるはずはなく、今のお前を俺は知らない。



空白の時間を結び付けたのは一通の手紙。

読み返し、声を殺して泣いた。



「さよならは言わないで下さい」


言葉の真意に気付く事が出来なかった。

俺は国語教師失格だろう。

助けられた鳥は飛べなくなる。

手折った花はやがて枯れる。


あの時、縋り付くお前を抱きしめて想いを伝えていれば。


出会った時の悲しみを湛えた瞳を思い出す。

傷つき、闇を抱え、生きることさえ苦しんでいた。

そのお前の手を掴んだのは俺だったのに。

もう何も出来ない。



俺が願ったのは他でもないお前の幸せだった。

お前の願いは俺しか叶えられないものだった。
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