24時間の独占欲~次期社長が離してくれません~
行ってみたいと憧れるばかりで機会はなかった店に、一歩踏み入れる。
当然、伊鈴が知っている鮨店とは格が違い、床には艶々の黒御影石が敷かれ、明るく照らされたカウンターでは、三名の職人が接客していた。
そして、これからいい話をするわけでもなさそうなのに、立花がなぜこの店を選んだのか分からなくなった。
カウンター席に腰を落ち着かせる立花の隣で、伊鈴は申し訳なさそうに座る。
「あの、立花さん」
「はい、なんでしょう?」
初めて口にした彼の名前は言い慣れず、伊鈴は自分の唇が空回ったように感じた。
それに、立花がとてもにこやかなのも不思議でならない。
「こんなにいいお店では、なかなかお話もしづらいのでは……」
「そんなことはないですよ」
にこーっと目尻を下げて笑う立花に、またしても伊鈴の胸の奥が高鳴る。
失恋当日だというのに、初対面の男性にきゅんとするなんて、これじゃまるで自分が節操なしみたいじゃないか。
「ご迷惑をおかけしたので、相応のご注意はお受けする覚悟です」
気を引き締め直して、身体を右隣に座る立花に向けて頭を下げた。