24時間の独占欲~次期社長が離してくれません~
ほどなくして、和菓子店の前に着いた。まだ開店前のようで、家紋と店名が入った抹茶色の暖簾はまだ掛けられていない。
ビルの向かいにある月極駐車場に入る立花について行くと、白い高級国産車のウインカーが瞬いた。
「どうぞ」
「……ありがとうございます」
セダンの助手席のドアを開けてエスコートする立花は、伊鈴が乗り込むまで番傘を差す。
まだ雨が止む様子はうかがえない。
伊鈴はフロントガラスから立花の店をぼんやり眺めながら、提示された条件は飲もうと改めて決心した。
「お腹空いてる?」
立花は運転席でハンドルを握り、銀座の街に車を走らせる。
右側の助手席にいる伊鈴を見遣れば、未だに緊張に包まれているようだ。
一方、伊鈴はまた豪華な店に連れていかれるのではと、空腹に負けじと頷かずにいる。
「評判のいいうどん屋があるんだけど、行かない?」
「おうどん、いいですね。食べたいです」
(それくらいなら、私がご馳走できそうだし、出させてもらおう)
自分のために使わせてしまった時間を、それで解決できるとは思えないけれど、なにもせずにはいられないのだ。