天満つる明けの明星を君に【完】
結局こてんぱんにやられて傷だらけになった天満は、悔し涙が出そうになるのをなんとか堪えながら朔から薬を塗ってもらっていた。


「俺と輝夜が一斉にかかってもあいつにかすり傷ひとつ与えられないんだから仕方ない」


「仕方ないって…僕は諦めたくないです。悔しい…絶対今年中には怪我させてやる」


実は負けん気の強い天満の震え声を聞いた朔は、押入れからもう一組床を出してふたつぴっとり密着させて天満を手招きした。


「一緒に寝よう。傷が痛かったらすぐ起こすんだぞ」


「え…一緒に寝てもいいんですか?」


「お前にはいつも如月(きさらぎ)たちの面倒を見てもらってるからたまにはいいだろう?雪男に任せとけ」


――如月とは鬼頭家はじめての長女であり、それこそ蝶よ花よと育てられたが…

どこをどう間違ったのかじゃじゃ馬以上…いや、男よりも男らしい性格になってしまい、‟可愛い妹”を想像していた天満たちはそこはかとなく如月の扱いに戸惑っていた。


「ねえ朔兄…朔兄はお嫁さんを貰って、産まれた子が次の当主ですよね?それでいいの?納得できるんですか?」


「またそれか。俺はそれでいい。そろそろ父様が蔵に連れて行くって言ってくれたから、俺もちゃんと心構えしないと。お前たち弟妹のこともしっかり守ってやるからな」


「ああ…はい…。僕、朔兄が当主になること自体は納得してますから。お手伝いさせてもらいますね」


「ん。とりあえず雪男を近いうちこてんぱんにしよう。お前が二刀流で攻めれば実質三人であいつに挑んでるのと同じだから、少しはましになるはず」


ふたりころんと寝転がると、疲れからかあっという間に寝入ってしまった。

そんなふたりの様子を見に来た母の息吹は、大きな目を緩めて布団をかけてやると、陽の匂いのするサラサラの黒髪を撫でてやって優しく囁いた。


「おやすみなさい。明日は今日よりきっと強くなれるよ」


母の言うことは大抵現実になる。

現実となって、雪男に悲鳴を上げさせた。
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