天満つる明けの明星を君に【完】
次兄の輝夜はまだ自分たち三兄弟がとても小さい頃に家を出た。

突然の出奔に家族の皆が悲しみ、あの子は特別な子だからきっと仕方がないのだと言っては納得できる理由をつけて気にしていないふりをしていた。


朔と輝夜は顔は違えどまるで双子のような存在で、その輝夜が突然煙のように居なくなったため、言葉には出さずとも朔が打ちひしがれた様は天満にもひしひしと伝わっていた。


「雪男、僕にも稽古をつけて」


「おっ、珍しいこと言うじゃん。お前も輝夜と同じで鍛錬をさぼってばっかだったけど、どういう心境の変化だよ」


「僕が朔兄を守るんだ。だから僕にも稽古をつけろ」


普段は穏やかな性格なのに有無を言わさぬ迫力でにじり寄って来た天満に木刀を投げてよこした雪男は、真っ青な目に楽しげな光を瞬かせてにかっと笑った。


「両方一気に来てもいいぞ。まだまだお前らにへまはしねえからな」


――雪男は教育係であり、主に朔に付きっ切りであらゆる刀術を授けていた。

その実力は父の十六夜にも匹敵するもので、この男から盗めるものは全て盗もうと考えていた天満は、地面に無造作に投げられていた数本の木刀をちらりと盗み見した。


「天満、怪我するからお前はどいてろ」


「僕、怪我なんて気にしません。男だから」


「はっ、その割には女に話しかけられるとまごまごして顔を真っ赤にしてるのはどこのどいつですかあ?」


雪男の馬鹿にしたような口調にも一切乗らない天満は、朔が雪男に向かっていったのを見て素早く木刀を足で蹴って空中に舞ったそれを跳躍して左手で取った。


「二刀流!?卑怯じゃん!」


「なんとでも言え。僕と朔兄でこてんぱんにしてやる!」


天満は両利きであり、二刀流の可能性がなくもないことを予想していた雪男は、すうっと目を細めて身を低くした。


「やばいぞ天満、あいつ本気になりかけてる」


「本気で結構。僕たち、あいつを倒して最強になるんだ!」


――そうやって本気で向かっていったのだが…もちろん完敗。

それでも天満はめげずに雪男に挑戦し続けた。

そうすることで、天満の技はめきめき上達していった。
< 11 / 292 >

この作品をシェア

pagetop