天満つる明けの明星を君に【完】

真心を込めて

実際、かすり傷ひとつ負わなかった。

ただあれほどの乱戦になればさすがに返り血を浴びてしまい、天満が着ていた濃紺の着物はさらに深い色へと変色していた。


「先にお風呂に入って来るね」


さすがに血生臭いまま食事をするのはきれい好きとしては絶対にしたくないため、台所に立っていた雛菊に手を振って風呂に入った。

全身をきれいに擦った後、湯船に浸かった時――身体が芯から冷えていたことにようやく気付いて手足を広げて天井を見上げた。


「…死んでいるといいけど」


落とした右腕は肩口から斬ったため、出血な相当な量になっただろう。

激流に落ちれば鋭い岩肌にぶつかって怪我をする可能性も高く、海に到達してしまえば危険な生き物も増えてゆく。

それのいずれかで致命傷を負って死んでくれるのが一番いい。

自分にとっても、雛菊にとっても。


「天満様、入ってもいい?」


「…えっ!?だ、駄目だよ、もう上がるから待ってて!」


脱衣所から聞こえた雛菊の声に思い切り動揺した天満がすかさず声を上げると、雛菊がふっと笑った気配がした。


「ご飯ができたよ、って言いたかっただけ。待ってるね」


「あ…うん…はい…ありがとう」


裸の雛菊が乗り込んでくるのではと勝手な想像をしてしまっていた天満は、恥ずかしくなって頭まで湯に浸かった。

…雛菊にどこから説明したらいいだろうか?

なるべく端的に感情を込めず事務的に語らなければと思いつつも、駿河が死んだことを確認できないまま戻って来た自分が不甲斐なく、途方に暮れていた。


「…仕方ない。誠心誠意謝ろう」


勢いよく湯船から上がり、髪をがしがし拭いて清潔な浴衣に着替えて風呂場を後にした。
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