天満つる明けの明星を君に【完】
妖は普段日中はほとんど活動しないのだが、強い妖は日中でも活動できる。

ただほとんどが雪で構成されている雪男は夏に弱くその力は半減されるが、それでも朔たちが束になっても勝つことはできない。


「朝に来るってことはそこそこ強いんだろうな。こっそり物陰から見ていよう」


同伴を許されていない天満たちがこそこそしながら嗅ぎ回っていると、件の来客が屋敷を訪れた。

体格のいい大柄の男ひとりと、とても小さな女の子ひとり。

女の子はその父親と本当に血が繋がっているのかと思うほど可愛らしく、盗み見していた天満は思わずぼそりと呟いた。


「親子…でしょうか?」


「多分。見つかると面倒だから庭に居よう」


居間を抜けて縁側から庭に出たふたりは、続いて居間に入って来た親子と目が合うと、小さく頭を下げた。

父は百鬼夜行明けで疲れているはずなのに相変わらず無表情で頭を下げる親子を上座で出迎えていた。


「聞こえないよう」


「でも女の子の方はこっちに来るみたいだ。天満、お前ちゃんとしろよ」


「うう…頑張ります…」


女の子は長い髪をひとつに結んで胸に垂らしていて、草履を履いている間もずっとこちらを見ていて天満はぎくしゃくしながらひきつった笑みを浮かべた。


「はじめまして、雛菊と申します」


「こんにちは、朔です。こっちが弟の天満」


「あの…こ、こんにちは…」


思わずどもった天満の背中を思いきり叩いた朔は、人好きのする輝かんばかりの笑顔で雛菊を惹きつけておいて小さく囁いた。


「しっかりしろ。でないと腹出しててもそのままにしてやる」


「はじめまして!雛ちゃんって呼んでもいいですかっ?」


勢いよく大声で話しかけてしまってきょとんとされると、朔が吹き出した。

そこで空気が和んで三人でけらけら笑って、雛菊と――出会った。
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