天満つる明けの明星を君に【完】
その直後から粒の大きな雪が景色をかき消すほどの勢いで降り始めたため、皆は居間の障子を閉めて輝夜を囲んだ。

どうやら皆からこういう扱いをされるのは慣れているらしく、しまいには知らせを聞いた祖父の安倍晴明までも来てしまって、雛菊は狼狽えるばかりだった。


「おお、神仏に愛されし子よ。健やかに暮らしていたかい?」


「お祖父様、私はもう童ではないのですからその言い方はちょっと」


「輝ちゃん輝ちゃん輝ちゃんっ」


輝夜の腕に抱き着いて離れない息吹をとても尊そうな眼差しで見ていた輝夜がふと顔を上げて雛菊をちらりと目で撫でた。

思わず飛び跳ねそうになった雛菊は、その何か言いたげな眼差しに思わず前のめりになった。


「可愛い弟の祝言には色々立て込んでいて行けそうにないので、先に挨拶をと思い帰って来たのですが」


「ありがとうございます。輝兄にちゃんと報告したかったから嬉しいなあ」


「可愛らしいお嬢さんじゃないですか。……ふむ、ふむふむ」


晴明が‟神仏に愛されし子”と例えたように、輝夜はどこか達観していて儚く、今にも掻き消えそうな妖しさがあった。

そんな輝夜にじっと見つめられて動悸が止まらなくなった雛菊が胸を押さえていると、ちょっとむっとした天満は唇を尖らせて抗議した。


「僕のお嫁さんに穴が空いてしまいます」


「ああこれは失礼。時に天満、お嬢さんに妙な気配というか…糸が絡みついていますね」


どきっとした天満と雛菊が顔を見合わせると、輝夜は息を呑む面々とは対照的にゆっくり茶を口に運びつつ、問うた。


「自分で対処できそうですか?」


「はい、できます。後で事情を話したいので聞いてもらえますか?」


「いいですとも。お嬢さんとも少しお話をしてみたいので、今晩は泊ま…」


「泊まるの!?大変!私今から輝ちゃんが好きなもの買って来るっ!」


相変わらずの騒々しさに輝夜がはにかんだ。

天満と雛菊は密かに手を握り合い、互いの不安をかき消すようにして力を込めた。
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