天満つる明けの明星を君に【完】
天満には晴れない憂いがあった。

恐らくそれは朔も感じているのではないだろうかと思い、夕暮れが近付いて来て朔と雪男が身支度を始めると、拳を握って俯いた。


「朔兄…輝兄は何故戻って来たと思います?」


「…お前の祝言には行けないからと言っていたな」


「そんなことで帰って来るでしょうか?今までだってほとんど帰って来たことがないのに。僕はそれが少し心配で…」


「あれには未来を見通す力があり、お前と雛菊に何かを見たんだろうと思う。‟雛菊から離れるな”と忠告をしてきただろう?それを忘れるんじゃないぞ」


「はい」


輝夜はいつも何かを憂い、儚く微笑んでいる。

あの優しすぎる気性の兄が歩みたくもない道を歩んでいることは知っていた。

いつか帰って来てくれると信じて待ち続けていたが、時期が悪すぎる、と思ったと同時に嬉しかったのに――


朔は俯いた弟をじっと見下ろしていたが、刀を雪男に押し付けて天満の隣に座り直して白い頬をぺちぺちと叩いた。


「今から日高の方へ行くから、俺と百鬼たちで駿河の捜索はしておく。何も心配するな」


「朔兄、ありがとう」


ぎゅっと腕に抱き着いて離れた天満は、笑顔を見せて朔と雪男に手を振った。


「行ってらっしゃい、気を付けて」


窓から外を見下ろすと、玄関前には大勢の百鬼たちが集結していて皆から遠巻きに見られていて思わず苦笑。


「ああもう、商売の邪魔だなあ」


「主さまの百鬼はとても強くて有名だから、みんな見たいんだと思うよ」


すると朔が出て来てひと際甲高い歓声が沸いた。

天満は窓から手を振り、気付いた朔が見上げながら笑顔で手を振り返した。


「さてと!休憩は終わり!頑張ろう!」


「うん!」


手を取り合い、接客に戻った。
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