天満つる明けの明星を君に【完】

宿ったもの

日高地方の上空は身を切るような寒さで凍えそうだったが――朔は終始にやにやしていた。

横を行く雪男はそれを横目に見ながらも、わざと突っ込みは入れなかったのだが、それを当の朔に指摘された。


「なんでにやにやしてるのか訊かないのか?」


「訊くまでもねえだろ、どうせ‟俺の弟は立派に成長したなあ”とかだろ」


「当たりだ。なんで分かるんだ」


「俺じゃなくても誰でも分かるっつうの」


朔が上機嫌なのは、雪男の存在も一役買っていた。

普段は幽玄町の屋敷の留守役をしているためほとんどこうして百鬼夜行について来ることはない。

…絶対に口には出さないが、実はかなり雪男を気に入っている朔は、時に父や兄のように接してきたこの男と共に戦える機会をずっと待っていたのだ。


「あー気持ちいい風だ。俺こっちの出身だから帰りに故郷に寄ってこっかなー」


「帰ってもいいぞ、その代わり俺は先に帰るからな」


「ちょっと待て。主さまをひとり帰らせるわけにはいかないんだよ。諦めます。諦めるからちょっとひと暴れさせてくれ」


「どうぞご自由に」


雪男が何かを握るような仕草をすると、その手の中に真っ白でいて虹色の光を放つ‟雪月花”という雪男の愛刀が顕現して思わずにじり寄った。


「ちょっとよく見せろ」


「あーもーくっつくなって!じゃあ先に行くからな」


この地方に百鬼夜行が来るという噂をわざと広めていたため、敵対勢力がわらわらと集まり始めていた。


――ここにはまだ天満と雛菊を不安にさせている駿河が潜伏しているかもしれない。

あわよくば今現れてくれれば切り刻んで屠ってやるのに――と思いつつ弟馬鹿な兄はすらりと刀を抜いた。


「よし、行くぞ」


誰もが心酔して陶酔して止まないやや切れ長の目が鋭く光り、矢のような光を放ちながら雪男に追随した。
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