天満つる明けの明星を君に【完】
突き抜けた天満は見ごたえがあった。

小さな頃から引っ込み思案で人見知りで――

屋敷に知らない者が来るとそれこそ兄たちの背中に隠れて会話ひとつもまともにできなかった天満だったが…

朔が今目にしているのは、縁側で雛菊を膝に乗せて桜吹雪を楽しみながらふたりでにこにこしている姿だった。

照れ屋で恥ずかしがり屋な一面が強くてとても人前でそんなことはできないだろうと思っていたのに、これだ。


「やっぱりうちの子だな」


これはもう血筋と言っていいのだが、溺愛体質で真綿に包み込むようにして愛しむ者が代々多く、当主はほぼほぼそういった者であることが文献から分かっている。

きっと自らもそうなのだろうと自覚している朔だが、天満もまた愛する者を妻に娶って本来持ち合わせていた特性が強く出て、朔は天満たちを横目で見つつ笑みを噛み殺すのに必死になっていた。


「おい主さま、にやにやすんな。羨ましいのか?そうなんだな?」


「羨ましくはないが、微笑ましくはある。あんな天満見たことあるか?」


「ない。一心同体って感じだよな。こう、片方が死ぬともう片方も死んでしまうような感じ」


そう口に出してみてなんだか不吉なものを感じた雪男がぞくっとすると、朔は文を畳に置いて腕を組んだ。


「駿河の件だが、お前の故郷は日高地方の最北端だったな?俺はあの辺が怪しいと思ってる」


「そうなのか?確かにあの辺りは未開の地だからなあ、隠れるにはうってつけかも」


「探りを入れておいてもらえないか?俺からも一筆書いておくから」


「了解。天満たちのためにも生きていたら早く仕留めないとな」


‟闇堕ち”した者は存在自体がとても危うく瘴気をまき散らす。

その片鱗がないのが相変わらず不気味だったが――

朔はまた縁側に目をやって笑い声を上げているふたりを見つめて、口角を上げて少し笑うと机に向かって筆を手にした。
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