天満つる明けの明星を君に【完】
痛い、痛い、痛い――

子宮がずきんと痛んで、産道をするすると赤子が下りてきているのが分かった。

駿河の爪はそんなに深く食い込みはしなかったものの、瘴気にまみれた手で触れられたことで、雛菊の首や腕などの血管が青黒く浮き立って脈打っていた。


「さあ、私と同じものになろう…!雛菊、私は独りでは逝かないよ…!お前と共に――」


その先の言葉を紡ぐことができなかったのは――痛みに顔をしかめている雛菊の前で、駿河の左の肩口から腰にかけて背後から一刀両断されて、身体がずるりとずれて地に落ちたからだ。


「雛ちゃん!」


「天満…さん…っ」


結界を破られてそれをすぐに察知して駆けつけたものの、雛菊の腹からは着物の上から出血しているのが見られて一気に青ざめた。

結界に入った時点で即死ものだったのに――それを乗り越えてなお雛菊に近付こうとする執着心にぞっとしたと共に、今までどうやって生き延びて息を潜めていたのか…それも気になったが、今はそれどころではない。


「雛ちゃん、何をされたの!?怪我をしてる!」


「天満さん…産まれて…きちゃう…っ」


「産婆さんを呼ばないと!早く中へ…」


「待…て…」


雛菊を抱え上げた時、足元から声がした。

今は一刻を争うのに、と内心舌打ちをしながら足元を見ると、駿河が肘を使って地を這いずりながらなお近付いて来ようとしていた。


「呪いを…呪いをかけたぞ…!雛菊…お前は私と逝くんだ…。その腹の子は…死ね。死ね死ね死ね死ね!」


「揚羽…全て吸え!」


『おお、こんなまずいものを食わそうとは主は人が悪い』


腰から刀を抜いて駿河の頭に突き刺すと、揚羽に残り全ての魂を吸い取られた駿河は不気味な含み笑いを上げながら、黒い砂になってさらさらと風に乗って散った。


「雛ちゃん…ああ、大変だ…っ!」


額や首、手足の血管が黒く浮き立って不気味だった。

苦しむ雛菊を家に連れ帰った天満は、ただただ祈っていた。


駿河の呪いが現実になりませんように、と。
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