天満つる明けの明星を君に【完】
邂逅
三年連続で男をもうけた十六夜は、今まで男ひとりにしか恵まれてこなかったため前例のない三兄弟の誰に当主を継がせるか、悩んでいた。

通例ならば朔が継ぐことになり、本人もそれを当然のように受け止めていたが――天満はそんな兄の朔に疑問を抱いていた。


「朔兄はどうして当主になるんですか?」


「長男だから」


「でも…嫌なことは嫌って言った方がいいです。もし僕が長男だったら…嫌だな」


「なんで?」


「だって…戦わなくちゃいけないんでしょ?それも毎日でしょ?僕、仲間を殺したくないです。みんな仲良くできないんですか?」


幼い頃、そうやって質問攻めをして朔を困らせた。

長男といっても自分とはふたつしか歳が違わないため、朔がそうやって責任感を持って務めようとしている意味が分からなかった。

だが朔は決まってそういう時頭をぐりぐり撫でてきて、手を繋いでくれた。


「百鬼夜行のはじまりは、人と妖が手を繋いでそれぞれが共存していける世にしようっていう所から始まってるんだ。俺たちは半妖だから、うってつけなんだと俺は思ってる。あの父様だって文句のひとつも言わず毎日百鬼夜行に出てるだろう?だから俺は何も疑ってない」


「でも…命の危険だって…」


「だから死なないように雪男に毎日稽古をつけてもらってるし、自分なりにお前たちを守れるように努力してる。天満、俺は当主になることは全然嫌じゃないから心配しなくていい。ありがとう」


――まだ十にも満たない朔はとても大人びていて、背もぐんぐん伸びていた。

鬼族は元々成長が速いが半妖もそれは同じらしく、自分ひとりが幼さが抜けていないように感じて恥じて俯いた。


「お前が大きくなったら俺に手を貸してくれ。兄弟で人と妖の懸け橋になって、平穏な世界を作ろう」


「はい!」


兄を疑っていない。

百鬼夜行の在り方が疑問なだけだったが、父に訊いても‟当主にしか教えない”とすげなくされて疑問は解決しない。


「じゃあ僕も強くなるしかない」


兄を手伝うために。
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