略奪宣言~エリート御曹司に溺愛されました~
*


 考えてみれば、匠海が誰と会おうと、誰を家へ招こうと、美郷が何かを言う権利はない。


『どうした、美郷? 元気ない』

「そうですか? でも少し疲れてるかもしれません」

『年末はどこも忙しいからな。俺も早く美郷に会って、癒されたい』


 毎晩の日課、自分の部屋で聞く匠海の声は、一日の疲れを癒してくれる。

 いつの間にこんなふうに思うようになったのだろう。

 そして、結婚すればなくなってしまうこの関係の名残惜しさが、強くなっていた。


「匠海さん……」

『うん?』


 思わず呼んでしまった。

 今は優しく返事をしてくれるこの声も、いつかは聞けなくなってしまうのかと思うと、ときめきに癒されていた心が、しくしくと痛みだす。


『美郷? やっぱり元気ないな』

「……」


 些細なことにも気遣ってくれる匠海に、会いたい、と言ってしまいそうになった。

 だけど、その言葉はぐっと飲みこんだ。

 次の日曜いつもの時間に会う約束をして、匠海の優しい声に見送られてから眠りに就く。

 限りのある時間なら、今だけは夢うつつに揺られていたかった。



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