【医者恋シリーズ3】エリート外科医の蜜甘求愛
失恋をして弱っていると告白した私に、彼は初対面にもかかわらずものすごく優しかった。
そして、忘れさせてやるという言葉通り、濃厚で濃密な時間に誘った。
確かな時間経過はわからないけど、きっと朝方まで何度も……だった感覚がある。
二日酔いの頭痛と胸焼けの中、昨晩の私に触れる彼の姿が次々と蘇ってくる。
その甘すぎた夜に、深いため息が漏れ出た。
そういえば……名前も聞かなかった。
それだけじゃない。
年齢も、何をしている人なのかも、全く何も彼のことを知らないまま逃げるように去ってきてしまった。
自分の今までの人生では関わったことのない、容姿端麗でとにかく素敵な人だった。
だけどもう、きっと会うこともない。
だから昨日の間違いは、自分の身に起こったドラマティックな出来事だったと葬ろうと思う。
口元をハンドタオルで押さえながらホテルのエントランスを出ていく。
置いてきた一万円じゃ全然足りなかったかもしれないと、聳えるホテルを振り返り今更心配になった。