王子?団長?どっちもお呼びじゃありません!!~異世界悠々おひとりさま満喫日記~





 ミハルは貴族ではない。けれど父親は洋裁店を営んでおり、聞く限りではその生活には、ゆとりがあるように感じられた。事実、屋敷は瀟洒で部屋数も多い。

 しかし朝の日差しの中で改めて見渡す室内は、何か少し、違和感が拭えなかった。

「……あ、そっか。家具があんまりないんだ」

 ふと、違和感の正体に思い至った。
 ぐるりと見回すダイニングにも、テーブルと椅子こそあるが、食器棚やその他一切の家財は置かれていない。

「そんなのはもう、とうに売っちゃったよ」

 私の呟きに、向かいから返事があった事にハッとした。

「売った?」

 けれど、それもそのはず。今が寝ずの調剤を終えた、朝食の席だった事に気付く。

「うちさ、周りが思ってるほどのゆとりなんてないんだ。父さんは寝る間も惜しんで働いてるけど、なにぶん洋裁ってのは単価が低い。俺もサントマルク王国軍に所属してそれなりの給金は貰ってるけど、それ以上に妹の薬代にかかってんだ」




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