三途の川のお茶屋さん
十夜の瞳から視線を外さぬまま告げる。
間近に見る十夜の黒紫の煌き、その中に私が映っていた。きっと私の瞳も同様に、十夜の姿を映すのだろう。
「悩みがあるなら、分け合いたい。私は十夜を知りたいです」
十夜が驚愕の表情で、目を見開く。
っ!
同時に私自身もまた、口をついて出た言葉の重みに驚いていた。
衣食住を共にし、同じ時間を過ごしながら、私たちの関係には何の縛りも無かった。私達は夫婦どころか、恋人ですらない。
しかし心の内までを共有したいと望むなら、それはもうこれまでの同居人とは一線を画している。
憂いや悩みを分け合いたい、その気持ちに言い訳なんて出来ない。
それは相手を愛しく想う、最たる感情に違いない。
十夜に抱き締められるより何より、私自身の感情に衝撃を受けていた。十夜の射抜くような視線から逃げるように、私は慌てて顔を俯かせた。
「幸子、お前は本当の俺を知らない……」