三途の川のお茶屋さん
あまりに予想外の神威様の言葉。俺は一瞬、返す言葉に詰まった。
「……何故、幸子を召し上げようとなさるのですか?」
問われた事に質問で返す無礼を、神威様は咎めない。
「あれの存在を不思議に思った事はないか? 人の身でありながら、何故あの娘は正気を保ったまま三途の川にとどまれる?」
そんな疑問は最初から持っていた。けれどその疑問に答えを求めれば、幸子との日常が崩れ去る。
だから俺に、幸子の存在を中央に問う選択肢など、初めからなかった。
最初の数年間、俺は中央からの追及に怯えて暮らしていた。幸子を留め置く事に異を唱えられるのではないか、幸子を連れていかれやしないか、そんな不安で戦々恐々としていた。
「ありません。幸子は、幸子です」
俺のはったりを神威様はどう思ったのだろう。神威様の目には、あるいは俺の虚勢とて、一目瞭然かも知れない。
「十夜、いかにも其方らしいな。其方のそういうところを儂は買っておるんじゃぞ」