三途の川のお茶屋さん


「いらっしゃいませ。お茶をお出しするのに少しお時間をいただきますが、よろしかったら奥で掛けてお待ちください」
「そりゃありがたいね」

暖簾からひょっこりと顔を覗かせたお婆さんは、けれど中には入らずに、キョロキョロと店内を見渡していた。

「おんやぁ? 娘さん、十夜はここにおらんのかね?」

お婆さんは、十夜を訪ねて来たらしかった。そして真新しい綺麗な着物を着こんだお婆さんは、しきりに足元を気にしていた。

間違っても汚れないように、裾をちょっと持ち上げている念の入れようだ。

「あ、十夜は埠頭に出ています。船の修繕で業者さんを呼んでいるので、それに同行してます」
「……うぬぬぬぬ。埠頭などに行けば、おニューの着物が汚れてしまうわ、ぬぬぬぬぬ」

お婆さんは眉間に目一杯皺を寄せ、腕組みして唸っている。



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