三途の川のお茶屋さん
タツ江さんの悲鳴のような声に後押しされ、震える手でオールを掴んだ。
私はなんとか漕ぎ出そうとオールを振るってみたものの、素人が長く重たいオールを上手く扱えるはずもなく、もたついている内に懸人さんが泳ぎ着いた。
「っっ!」
私はオールを手放して、懸人さんと距離を取るように狭い船内を後ずさった。船縁に手を掛けた懸人さんは、一息で船内に乗り上がった。
ヒュッと、恐怖で喉が詰まる。
「お前が憎いよ。かつても憎いと思った。だけど今ほど、憎いと思った事はない」
向けられる憎悪が、ピリピリと肌を焼く。
全身濡れそぼち、頭から血を流しながら、懸人さんが、一歩、また一歩と距離を詰める。
私は同じだけ、這いずって後ろに逃げる。だけど私の背中が、ついに船壁に行きあたる。
「十夜と一緒にいたい? はははっ! させるものか……」