三途の川のお茶屋さん
「ありがとうございます。でも昨夜、朝食用にフレンチトーストを卵液に浸してあるんです。支度をしたらすぐ下ります。焼きたてを一緒に食べましょう」
……同時に悟志さんの記憶もまた、霞んでいく。悲しいけれど、記憶は時の経過で色褪せる。どんなに願っても、当時の鮮明度のまま胸に留まってはくれない。
「! そうか、それなら先に下りている」
十夜の気配が遠ざかり、階段を下る軽快な足音が聞こえてきた。
ここ一~二年は、悟志さんには夢でも逢っていなかった。けれど夢で逢えない事に対して抱くのは、悲しさや寂しさじゃなかった。
……逢えない事は、怖い。逢わない事で悟志さんへの想いが一層熱を失っていくのが怖かった。
あんなに愛した当時の想いが、明らかに温度を下げている現実が、言いようのないくらい恐ろしかった。