三途の川のお茶屋さん
「それじゃあ幸子さん、出航時刻を過ぎているから私は行くね」
「はい! 懸人さん、ありがとうございました!」
私は下船した女性の手をしっかりと握り締め、船の出向を見送った。女性は私が握るのと逆の手で、スカーフを取り去った。
女性の金髪が、はらりと宙に舞った。
「……船がいってしまったわ」
女性が寂し気に呟いた。
けれど、どこかぼんやりとした女性の目が、真に寂しいと感じているのかは分からない。
「乗りたかったんですか?」
十夜から頼まれていたけれど、私はどこかで高を括っていたのかもしれない。
だって女性は、生前の詳細な記憶を持たない。
だから船に乗る動機だって持ち合わせてはいないだろうと、そう安易に考えた。けれど女性は、私の目を盗んで船に乗ろうとした。
「夫が乗った船に、私も乗りたかったのよ」
!? 女性の告げた台詞に、私は驚いていた。