三途の川のお茶屋さん
「ご主人が日本人だったんですね?」
「そのようね。だって、これにそう書いてあるの」
おもむろに女性が取り出した、一冊の帳面。
それは日記帳か何かだろう。流暢な英文で綴られるそれは、女性がこれと指し示しても、私には判読できない。
「これにはね、夫を亡くした女性の苦悩が綴られているの。その時々の気持ち、他にも労災認定や、慰謝料を求めた裁判の記録なんかもある。最後はね、夫の元に逝きたいって書かれてる。だけど果たして自分は夫と同じ場所に行けるのかって、女性はそれをとても不安に思っていたみたい」
これは執念といえるのだろう。
国境も、言語も、宗教や慣習も越えて、愛情で結ばれた夫婦の絆。
全てを覚えている私とは、少し状況が違う。
けれど確実に、女性は生前の想いに則った道筋を辿っている。
「日本ってまるで杓子定規みたい。キチンキチンって全てを枠に当て嵌めるのだけど、その枠に当て嵌めるために皆が皆、とても無理を重ねてる。夫はまさにその内の一人だった。だけどそんな真面目で勤勉な夫を愛していたの。でも残念、船に乗り損ねちゃったから、私は夫の元にはいけないのかしらね?」