三途の川のお茶屋さん
その晩は懸人さんの言う通り、夜の帳が完全に降りても十夜は帰って来なかった。
夕食と入浴を済ませれば、別段する事もなく、私は早々に寝台に潜った。
けれど、なかなか眠りは訪れない。
「……仕方ない」
私は早々に眠る事を諦めて、寝台から抜け出ると居間に下りた。そうして今ではすっかり定位置になっている、長ソファの左側に腰掛けた。
「十夜、遅いな……」
チラリと時計に視線をやれば、時刻は午前零時を回っていた。
今日は十夜の居ない、初めての夜だ。
同じ屋敷、同じ空間に十夜がいない。たったそれだけの事が酷く心細く、不安に感じた。
見るともなしに、パラリパラリと手元の本を捲る。
カチ、コチ、と時を刻む壁時計の秒針の音が、常よりもずっと大きく響いていた。