キスすらできない。
妻となった女は…
大学の学友。
清楚という言葉が似合うと思ったのが第一印象か。
優しく気さくで賢くて。
人間関係を面倒だと思っている俺でさえ一緒にいて気が楽だと思った存在。
それでも親しくとも男女として交際をしていたわけじゃなかった。
それが結婚のきっかけになったのは向こうの親からの申し出。
そこそこ大きな病院の医院長の娘であった彼女。
それでもそれを望んだのはきっと彼女自身で。
俺も彼女に対して不快感も不都合もない。
寧ろ、好ましいと思っていた女性だ。
断る理由もなかった。
一緒にいて自分に負荷がなく心静かに日々を送れる相手。
それが当たり前の恋情だと思っていたんだ。
齢、26…。
あの頃の彼女日陽は13歳だったか。
流石に制服を纏う様な年頃になれば幼少の頃の様に頻繁に会いにくる様な事はなくなっていて。
こちらもこちらで学生を脱し社会に揉まれ始めていた時期だ。
会えないことに嘆くどころか日々の忙しさや学ぶことの多さの中に小さな姿の存在など忘れかけていた程。
自分の中の彼女の印象も最後に見た時の幼いまま。
13の歳の差の関係など、どんなに親しくとも取り巻く環境下も違いすぎて疎遠になっていくものだろう。
恋情なんてまさか。
それでも、自分が初めて気にかけた存在だ。
手が離れる物悲しさや寂しさは不意に思い出してしまった刹那に抱いていたとは思う。