キスすらできない。
でも、そんな物だろう。
俺は俺の、彼女は彼女で自分の環境下に見合った世界で見合った『幸せ』に手を伸ばして過ごしていく。
それが、当たり前で普通の人生というもの。
自分の意識はそんな風に構築されて完結していた筈であったのに。
「……先生、」
ぶち壊しに来たのは……日陽の方だ。
久しぶりと言える声音は懐かしいとも感じた。
でも、懐かしさが継続したのは振り返るまで。
振り返ってしまえば……。
……誰?
一瞬、阿呆にもそう思った程見違えた姿の日陽の姿。
衣替えしたばかりの真新しいセーラー服からは華奢で白い手足が伸びて。
華奢であるのに記憶していた頃の様な子供の細さじゃない。
少し見ぬ間にほんのり肉付いた体は女性味を帯びていて。
子供とも大人ともつかない十代の彩はどんな成熟した大人よりも妖しいとさえ思う。
そんな成長にまんまと魅了されて、
「……久しぶりだね、ピヨちゃん」
反応を返すのが遅れた程に。
ハッと我に返ればいつも通りに振舞おうとポケットに手を突っ込んでる自分がいて。
何で……こんなに取り繕うように焦っているのか。
まともに顔を見れないことを誤魔化しているのか。
心臓が……痛い?
ドクドクと流れる血流の音や感覚が煩わしい。
なんなんだ……コレ…。