キスすらできない。
今度こそ…自分のものに…。
「………酷い」
「っ………」
「先生は………酷い人ですね」
くぐもった恨み言の様な声音は腕の中から。
今まで高まっていた感情なんて一瞬で吹き飛ばしに来た声音に、ようやく腕を緩めて覗き込めば。
「………先生は、酷い人です」
「ピヨ……ちゃん?」
「酷い。……狡い」
言葉ほどその表情に恨みつらみは感じない。
どちらかと言えば少し拗ねた様な、不貞腐れているような。
それでも決して悲観がゼロというわけでもなく。
「今更……そんな事言うなんて…しかも、今言うなんて…」
「……」
「呪うくらいに想ってくれてたならあの時追いかけてくれればよかったじゃないですか」
「……」
「諦めるしか術がなかった私と違って、先生はその気になれば違う道も選べたのに」
「……」
「結局、周りの目とか立場を優先して踏みとどまったのは先生なのに私を呪うなんて酷すぎるっ」
「……そうだな」
「それに……っ……どうしてまた………こうタイミングが…」
「……ん?」
「『ん?』じゃないですよ。それを打ち明けるのがまたどうしてこう間が悪く今なんですかっ」
「………いや……お互いにフリーだなって思って」
「フリーというには絶賛傷心中でなんなら自己謹慎かけてる私なんですよ!?」
「…………」
「今一番、自分が幸せになっちゃいけないって思ってる時に……っ……なんでそんな残酷なほど嬉しくなる告白してくるんですか……」
「…………ピヨちゃんが欲しいから」
「っ……」
答えなんてそれしかない。