キスすらできない。










「まさか……一周回って戻ってくるなんて」

「……先……生」

「本当に……呪いの効果そのものに泣いて傷ついて俺のところに戻ってくるなんて……」

「先……」

「最低だ……」

「………」

「最低にも……悲愴な姿に歓喜が満ちる……」

「っ……」

「………心底……愛おしい」

全ての記憶を打ち明けた直後。

感情のままに、更にギュッと抱き寄せれば息をのむ音が耳元で聞こえる。

嫌でも伝わる心音はお互いに平常より早い鼓動を響かせて。

手が……届いている。

昔とは違って自分を踏み留まらせる現実もない。

あの頃はどうしようも出来なかった年齢の差であっても今はどうだ?

笑ってしまうくらいに然したる問題ではなくなっている。

自分でも驚く。

それなりに消化した想いだと思っていたのに。

色あせていると思っていた想いなのに。

こうして引き出しを開けてしまえばどうだ?

「今も昔も……好きだと感じたのは一度だけだ」

「先…生…?」

呪う程……好きだと思ったのは後にも先にも……。

「………好きだよ、日陽」

なんて鮮明に焼き付いていた恋情なのか。

人間、口にしてしまえば欲が出る。

もっと、もっとと。

言ってしまえば箍が外れて、触れるだけでは物足りなくなる。

抱きしめているだけでは足りなくなる。

欲しくて、欲しくて…。

「っ……先生……」

「………お前の幸せを願わなくて良かった。お前が俺の幸せを願わなくて良かった」

目が眩む…。

逆上せそうだ…。





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