想い花をキミに
「あの子が隼太の婚約者?」

直感でそうだと思った。
あの顔を見れば分かる。大事に育てられてきたその子は、悩みなんて一つもなさそうな表情をしているから。
それに、これから隼太との婚約を発表するんだというかのような、幸せに満ち溢れた表情をしている。

あんな子に、何もない私が勝てるの?

ついさっき弱気になっちゃいけないと自分を叱咤したばかりなのに、私はまた俯き加減になっている。
あちこちで挨拶を交わし合う人の中で、知り合いもいない私は一人ぽつんと立っているだけ。
帰りたい、そんな気持ちにさえなる。
自分のハイヒールのつま先を眺めながらぼんやりとしていると、

「会場にお越しの皆さま、大変長らくお待たせ致しました。これより、」

と隼太の就任披露宴を開始させるアナウンスが会場内に響き渡った。

それと同時に賑やかだった会場はシーンと静まり返り、隼太のお父さんがマイクを持って話し出すのが見えた。

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