うるさいアドバイスは嫌味としか思えません。意気地なしのアホとののしった相手はずっと年上の先輩です。
13冷静さは必要だと思う

『部屋にお邪魔してる。酔っぱらってて話にならない。ずっと言い合いばかり、嫌みの応酬とたまに反省の言葉。全然合わないと思う。イライラして心の中でずっとなじってる、たまにはっきり言っちゃう。厄介過ぎる。』

『すぐに相手をコントロールしようとするのは悪い癖だって。ゆったり構えて、酔いがさめるのを待てば?』

『一つもいい所を見つけられない。嫌なところしか目につかない。』

『それはお互い様じゃない?一体どこに惚れられたの?何かきっかけがあったの?』

何と・・・・確か『若さ』は認めてくれた。
年下の弟から見るのとは価値観が違うからしょうがない。
姉の一番の魅力が若さ・・・・そんな事は考えられないだろう。

『知らない。一目惚れされたらしい。』

『レアケース。絶滅種かも、それだけでも貴重、価値がある、そう思えば?』

『思える訳ない。』

今すごく酷い事言ったよ、和央・・・・。

『今何してるの?』

『酔いをさませって、頭を冷やしてもらってる。』

シャワーと書くと想像が変な方向に行きそうだから、そう書いてみた。

『姉ちゃんも冷静にね。』

『この上なく冷静です。』

『そう。じゃあね。ラブ&ピース。』

勝手に終わりにされた。

他に何かアドバイスはないの?
相手をコントロールするな、冷静でいろ。それだけじゃない。もっとさぁ、他には?


携帯を手にしてため息をついた。

気がついたらシャワーの音は聞こえなくなっていて、廊下を見たら、腰にタオルを巻いただけの状態でぼんやりとこっちを見てる姿に気がついた。

何してるの?やっぱり目は覚めなかった?

「まだ具合悪いんですか?」

近くに歩いて行って、聞いた。

「いや・・・・。」

じゃあ、何でその恰好なんだ?

「体冷えます。風邪ひきますよ。」

「暖めたいとか、そういうこと?」

「普通に会話できないんですか?」

「だから酔ってるって言ったよね?」

「何て便利な言い訳ですか?さっさと服着てください。馬鹿は風邪ひかなくても、アホはどうだかわかりませんよ。」

アホらしい。
ちょっとだけ心配したのに。
リビングに引き返す。

「本当に暖めなくていいの?」

そう言われて思わず振り返ったら、寝室のドアに手をかけてこっちを見ていた。

酔うとこんなに始末が悪いとは。
絶対一緒に飲みに行かない!

ずんずんと目の前に歩いていって思いっきりお腹に手の平を打ち付けた。
ピシャリと乾いた音がして、赤い手の平マークがついた。

ふんっ。

痛そうにお腹がへこんだけど、スッキリした。

ああ、そういえばさっき吐いてたんだっけ。
うっかりしてた。気がつかないふりをしよう。
くだらない冗談を言うくらいには元気になったということで。

せっかく来たのに何のおもてなしも受けてない。
勝手にコーヒーをいれることにした。
今更遠慮もいるまい。
朝と同じように動く。
しばらくして普通に服を着て戻ってきた。
キッチンにいる私に驚いただろう。

「コーヒー飲みたくなりました。勝手にいれてます。」

我ながら遠慮がない。

一体どんな女だと思っていただろうか?
こんな女だったとは・・・・・そう思われてるかもしれない。
後で聞いてみよう。

「いつまでそこに立ってるつもりですか?ソファに座ったらどうですか?さっきも言いましたが期待には応えませんよ、酔ってなくても。」

ぼんやりこっちを見てた石橋さんに言った。
玄関で言われたセリフを言い返してやった。

気がついてるんだか、ないんだか。
何の反応もないと面白くない。
やっぱり嫌みで返せないほどまだ本調子じゃないとか?

別に言い合いたいわけではない、それはうんざりしてるんだった。
もう十分だった。

「具合はどうですか?だるかったり、気持ち悪かったり、ただ普通に眠かったり。」

「いい。」

心配しなくていいなのか?すっかりいいなのか?
分からないけど、いい、ならこっちも全然いいです。
分かりやすく話せと説教したくせに。
自分が出来てないとなぜ気がつかないんだ?
そう指摘しても今は酔ってると言い訳されそうだから、言わない。

漂うコーヒーの香り、カップをこれまた適当に掴んで注ぐ。
冷蔵庫から牛乳を取り出して入れる。これまた勝手に。

「石橋さんの分もありますけど、飲みますか?」

「お願い。」

勝手にした事もそう言われると許された気になる。
もとより二度目だし気にしてはいないけど。

「石橋さん、私はメイクが濃くて、報告が分かりにくくて、言葉遣いがなってない以外、どんな印象なんですか?」

そう聞いたら嫌な顔をされた。
全部私に言ったことなのに、今更だ。

「真面目に聞いてるんです。」

「普通。」

少しも考える時間なく答えられた、しかも・・・・、普通とはなんだ?
特別だと思えるポイントもないとは、やっぱり丸ごと幻覚だったのか?

「あえて聞いてます。どこを・・・・見てくれたんですか?」

和央が知りたがった、どこに惚れられたのか。
自分でそう言うのもなんだから、婉曲的表現で聞いてみた。

「今じゃあ、さっぱり分からん。」

「・・・・・・・。」

お互い様です。私も一つもいい所を見つけられずにいますから。
元カノトラウマ説がない以上、好きになるタイプでもなかったんだから。

あえて言うなら・・・・小声でそうつぶやいて眼を閉じてる。

「あえて聞いたんですから、あえて言ってください。」

「・・・・やっぱりわからん。」

何でわざわざダメ押ししたんだ。本当に嫌な奴。

「こっちむいて。」

そう言われたから、どこか褒めてもらえるのかと思った。
今まで一度もないけど、小さなところでも褒めてもらえることがあるのかも・・・・と。

「なんか・・・・今日は、・・・・本当にメイクが濃いな。」 

その言葉に、伝説の人になってもいいと思った。
思いっきりコーヒーを顔に掛けたい!!
牛乳を入れて飲み頃になってるけど、一度チンして湯気を立たせる手間をかけてからぶっかけたい!!

全然褒め言葉でもなかった。
仕事では濃いとも言われて控えめにしてただけ、もともと普通のお休みはこれくらいするのに。
だからって全然、すれ違った世間の人が二度見するようなものじゃない。
普通だ普通。

「会社では、そんなのいらない。」

ダメ押しされた。

「そう言っても、他の女の先輩は言われたこともないらしいじゃないですか。何で私にだけそう言うんですか?今のこれだって、そんなに他の先輩よりどうこうと言われる程じゃないです。」

「目立たなくていい。」

「別に目立とうなんて思ってません。そんな誰かに媚びを売るような気持ちで会社に行ってるわけじゃありません。」

結局ダメ出し。説教じゃない。

「だから、目立つなって言ってるんだ。誰にも注目されないで、今まで通り同期と飲んでるくらいで、いいから。」・・・・俺がちゃんと見てる。

小さくそう言われたのをちゃんと耳が拾った。。

「聞こえないです。最後だけ誤魔化さないでください。」

聞こえないふりをして言った。

「聞きたいなら、もっと近くに来ればいい。」

セリフと表情が合ってるとは思えない。
もっと違う雰囲気でも出来る会話なのに、何で二人とも喧嘩腰で、きつい表情なの?

「意気地なし。ちゃんと伝えたいなら、そっちが近くに来ればいいじゃないですか。」

ほぼ喧嘩。再びの売り言葉に買い言葉。
そんなやり取りだけは簡単に成立する相性らしい。
確かに冷静じゃない。
和央の言う通り、冷静さは必要だと思う。
でも反省したのは私だけだったみたいで、この買い言葉もさらに買ったらしい。

いきなり体が平行に動いた気がして、ソファの座面を滑り距離が縮んだ。
他力とはいえ私が近寄った形になった。

思わず悲鳴が出るところだった。
口は開いたけど声には出なかった。

「俺が見てる。それで、満足しろよ。」

さっきと同じくらいの声の大きさでも、ものすごく近くで言われて、良く聞こえた。
偉そうなことを言ってるわりには、セリフの響き程には偉そうな態度じゃない。

「最初から、そう言ってくれれば。」

「反省はした。今からは、そうする。」

全然出来てないくせに、そう言うんだから。

「遅いです。散々人の事を悩ませて、どんだけ私が気にしてたか、全然分かってないです。」

「だから俺だって嫌われた。それは自分のせいだって思ってる。それじゃダメか?ちゃんと伝えたじゃないか。それに、意気地なしって何だよ。そっちこそ・・・・。」

言いかけて言葉を飲んだ。

「何ですか?そっちこそって、私が何だと言うんですか?」

少しは落ち着いてる。
さっきの喧嘩腰とは違う。
言い合いだけど、それは多分必要なプロセス。
自分の気持ちと石橋さんの気持ちを合わせるために必要な事。

「せっかく戻ってきてくれたんだから、もっとちゃんと答えてくれてもいいじゃないか。まさかあの告白をそのまま無視されるなんて思ってなかった。だから、カメラに姿が見えた時は期待したのに。」

『まだ決められない。』そう言うつもりだった。その為に来た。
和央に言われて、確かに失礼かと思ったから、そう伝えるために来た。
そのはずだった。

「言ってる事とやってることが、めちゃくちゃです。私は伝えました。勝手に酔っぱらって吐いてるただの先輩なら、うんざりして、握られた手を振り払ってでも帰りますって言いました。私は自分で側にいたくて、ここにいます。」

居心地の悪い部屋で勝手にコーヒーなんいていれない。
シャワーから出てきたらさっさと寝室に押し込めて、さよならと帰っていった。

「意気地なしって何だよ?今までの人生でも言われたことがない。」

「ちゃんと言ったら拒否されると思って、そろそろと言い出してるじゃないですか。もっとちゃんと言えばいいのに。」

「今朝、その告白を無視した女の言い草とも思えない。」

「だから、それは、いきなりだったからで・・・・。もう、堂々巡りです。なんでもっと普通にしっとりとした会話が出来ないんですか?これじゃあ喧嘩ばっかりです。いい結果なんて程遠いです。」





「今朝、どうして逃げなかった?大人しくしてただろう?」

「逃げて欲しかったんですか?殴ればよかったですか?なんなら、・・・・・もう一度試してもいいです。逃げるかもしれませんし、殴るかもしれませんよ。」

「少しは年下らしく甘えてみろよ。可愛くて撫でまわしたくなるくらい甘えてみせろよ。」

「同じことを私も言いたいです。年上らしく俺について来いって、リードしてください。甘えて縋りたくなるような、そんなところを見せてください。」

「可愛くないな。」

「男らしくないですね。」



「じゃあ、・・・・期待に応えてやるよ。殴れるものなら殴れ。」

そう言って、ほとんどくっつきそうだった顔が完全にくっついた。


手も体も動いたけど、殴るためじゃないって相手も分かってる。

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