うるさいアドバイスは嫌味としか思えません。意気地なしのアホとののしった相手はずっと年上の先輩です。
15コツを掴めば、思うとうりになるみたい
シンクに手をついてもたれる様にして見る。
座っているのは広いソファ、ベッドも大きかった。
明らかに1人用じゃない。
それはこの部屋も、当然。
何かの転機をきっかけに買ったとしか思えない。

「前の仕事を辞めたのはどうしてですか?」

「ストレスで禿げそうだった。実際一個か二個は皆が頭にあったかも。アドレナリン全開で高揚と裏腹のストレスが常にあった。さすがにずっとやる仕事じゃないと思った。」

「このマンションは自分のものですよね?どのくらい住んでるんですか?」

「さて、五年になるくらいか、そんなとこ。」

「何か、きっかけがありましたよね。大きなきっかけと転機と目標が。」

少し黙った。

「何が聞きたいんだ?」

「一人用にしては部屋も広くて、家具も大きくて、一人で暮らすにはアンバランスです。」

広いリビングで、距離を置いて会話が行き来する。

「おかげさまで、なかなかの給料をもらってたから満足できるものを買った。それだけだ。」

今度は私が黙る。

「それに、長く生きてる分の十年は気にしないと言われた気がするが。」

「だから、ただ、聞いただけです。」


「エリートだったのは分かりました。今の会社のお給料よりもらってたんでしょうから。」

「まあな、明らかに年収は減ったけど、いいよ、別に。三年目に可愛い彼女を手に入れたし、それだけでもプライスレスって思ってやる。」

またまた偉そうで。
さりげなく話題は中心部分がそれた、もう戻れない、しつこいと思われる。
年上の『おじさん』の恋愛に嫉妬してもしょうがない。

気にしない、そうする。

「こっちに来れば?夜の間中そこにいるつもりか?」

握りしめていたシンクの手を離した。勢いをつけるように背中を離して歩き出す。
手を伸ばされたところへ。

「考えすぎ。別にそんな事はなかった。」

引き寄せられるままにすぐ隣に座る。

「まさかそこから攻めて来るとはな。証明は出来ないから信じろとしか言えない。寝室も初めてのお客だから。」

無言のまま、信じるしかないとは思った。

「弟君もそう言うよ。『姉貴、気にしすぎ。』って。」

「姉貴っては言わない、姉ちゃんっていうから。」

「どうでも良くないか、そこ。」

また顎を挟むように掴まれた。二度目。何だそれは?
大人しくされるがままで。

そういえば・・・・・。

「二年目で嵯峨野さんの指導係になって、三年目で偉そうに私の指導にも口出すんですね。」

「そうだよ。聞いてないだろうが、俺が指導係を二年続ける予定だったんだけど、春の仕事がバタバタと山が重なって、急遽嵯峨野に変わった。だから俺が二人の分、指導係。」

「春にバタバタしなかったら私の指導係が石橋さん?」

「そう。運命的すぎるだろう。」

無視。

「嵯峨野さんは知ってるんですか?」

「ああ、知ってる。相談のような報告は受けてたし。」

何?結局全部報告されてたの?
その上でダメ出しだったの?
少しは当たってたのも、当たり前だったらしい。
嵯峨野さんがアドバイスと言った意味も分かった気がした。

う~、何でそれを先に言わない!!

「まあまあ、嵯峨野と成長してるのを温かく見守る素敵な先輩って事で。なんかあったら遠慮なく相談しろ。嵯峨野の文句でもいいぞ。」

「ないです。優しいです。」

「だろうな。彼女の話は聞いてるか?」

「はい。月曜日はだいたいそんな話から始まります。」

「ならいい。」

「何がですか?」

「内緒にするようだったら怪しいだろう。」

「・・・・まさか、心配してました?」

「普通するだろう?」

「さあ?」

「するよ。」

「じゃあ、ご心配なく。」

そう言ったのに、全然嬉しそうでもなく。

「なんとなく同期の奴らの言ってたことが分かった。やり取りが男っぽいな。あっさりしてるし、どこまでも色気無しだ。見事に無い。」


むかっ、無い無い言うな!
さっきまで・・・・だったじゃないか、若い彼女を楽しんでたはずなのに。
自分では声に出せないけど、思うだけでも恥ずかしいけど、絶対!!
なのに、本当にムカつく。
視線をするどく突き刺す。

「だからそのままでいろって事だって、変に色気づくな。」

それじゃあ、いつまでたっても封印状態じゃない。
封印を解いてもどのくらい溢れるかは未知数だけど、少しは『おおっ』とどよめかせたいのに。
一回くらいは奢られたい、ちょっとだけ気を遣われたい。

「あんなに言っても満足できないのか?他の奴に言われなくてもいいだろうが。」

「何をですか?」

「可愛いとちゃんと言っただろう。何度も何度も繰り返してやったのに。」

繰り返してやった・・・と、そんな言い方はないだろう。

「わざわざ繰り返していただいてありがとうございました。」

視線をはずしてテーブルに向く。

「俺が言うから、欲しい言葉は、俺が言うから。絶対他の奴に求めるな。絶対目立つな、変わるな。」

頭におかれた手がゆらゆらと頭を揺さぶる。
それじゃあ本当につまらない。

「返事は?」

「私は私です。」

「当たり前だ。誰も変わりは出来ないし、少なくとも俺はいらない。」

喜んでいいのかどうなのか?
全体的にまあ、よしとしよう。
受け入れて、ちょっとだけ地味子は止めるけど、そうは変わらないようにする。

そんなに色気がないとは。
頭から手が離れけど、グルグルと動かされたからちょっとだけ目が回ったらしい。
ついでに少しもたれて目を閉じた。

全力で抱きしめられて頭にキスをされる。
甘えてるのは半分、半分は本当に目が回ってるのに。

満足そうに笑ってる気がする。
これくらいで喜んでくれるならいい。
少し顔をあげて見える肌にキスした。
めまいも落ち着いたから。
倍量のキスが降ってきた。
首筋が痛い。

「痛い。」

そう言ったのに、少しも抗議の声になってないのが悔しい。
全然やまない。
お返しにさっきキスしたあたりに噛みついた。

「おわっ。」

やっと離れた。

「誰に仕込まれたんだよ。獣か、野生か、せめて爪痕なら色っぽいのに、歯型ってなんだよ。」

顔を見られた。

「痛いんです。」

「我慢しろ。マーキング中だ。」

「そっちが野生じゃないですか。」

「おお、年上のワイルドな彼氏、いいだろう?」

「誰に自慢できると言うんですか?言いふらされたいんですか?」

「それならそれでもいい。誰も手を出さないから安心して放し飼いが出来る。」

「冗談はやめてください、さっき言いましたよね、会社では無視します。今まで通り全力で避けます。」

「しぶしぶ了解。」



「こんなやり取りでいいんですか?楽しいですか?もっと甘えろと言われても出来ないものは出来ないですよ。」

「しょうがない。二重人格を楽しむから。」

「それはお互い様です。」

「そうか、楽しいならいい。」

ん?やっぱり伝わらなかった。楽しいとか言ってない。二重人格というところを言いたかったのに。
でも否定はするなと言われたので、そのまま反論はしないでおいてあげた。
言われたことは学習するから。

「なあ、帰りたいとか思わないだろう?離れたいとか思わないだろう?どうだ?」

「はい。思わないです。一緒にいたいです。」

「よし。」

ここで言わせて満足してくれるならいくらでも言ってやろう。
なんだか単純すぎる、もしかして・・・・ちょろい?
小娘をしつけてるつもりだろうけど、いい加減満足いくように言ってあげただけなのに。

いいですけど。
少しは駆け引きがあった方が楽しいだろうから。


じゃあ、次はお願いをするところでしょう?
本当に甘く、甘えて、お願いと。
満足そうにしてる。
やっぱりちょろいみたい。

そんな事も楽しくなってきた!!

今なら言える。
もっと離れずに一緒にいたいし、楽しいって。


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