うるさいアドバイスは嫌味としか思えません。意気地なしのアホとののしった相手はずっと年上の先輩です。
16まだまだ見せてない魅力があるはず
しばらくして起こされた。

「お風呂は?メイク落とした方がいい。」

「・・・・ぅん。」

だるい。体が重い。
若いはずなのに。おじさん体力ある。

「今おじさんとか言わなかったか?」

「知らない・・・。」

危ない、声に出た。

「眠い。」

抱きついて誤魔化した。

「朝の顔がすごい事になってる気がする。メイクが濃かったし、パンダを通り越してピエロみたいになってるかも。魔除けになりそうだったら写真撮るぞ。」

「そんな事言って寂しい夜にこっそり見たいんでしょう?」

「別にこっそりは見ない。堂々と見る。拡大して細かいところまで見る。」

「・・・・・変態。」

「そうかも、何で一目ぼれしたんだろう、俺のあの時の自分の価値観と精神状態を疑う。」

「『あの時』って限定して思い出せるほど印象的で記憶鮮明で消せない瞬間だったんだ。やるね、私。」

「お前起きてるよな、寝ぼけたふりして、しっかり起きてるよな。とりあえず続きは後で付き合ってやるから、シャワー浴びてこい。その後俺も入るんだから。」

デリカシーなく人のお尻を叩いた。
乙女の桃尻を。
さっきまで喜んで撫でてたのに。
そう言いたい。

「あの化粧品、どう見ても元カノの残したものじゃない。ここに入った人がいたんじゃない。」

「ああ、もしかして、それでバスルームに行きたくないとか?可愛いなあ、本当に迷探偵の珍道ぶりが可愛いなあ。」

そんな訳ない。ただ体がだるいから、動かないだけなのに。
ちょっと思い出したから、ついでに聞いてみただけだ、気にしてたわけじゃないのに・・・・・。

「あれは街でもらった試供品だから。最近男性も使うらしいぞ。よく見てみろ。ちゃんと書いてるから。一緒に行って読んであげてもいいぞ?」

「アホアホアホ。」

そう言って起き上がった。

「今度お尻叩いたら触らせないから。」

「お尻に手をやったら逃げるのか?俺は普通に触るから、自分で逃げろよ。」

むむむっ。
ちょろい相手にやられた、そう思ったらいっそうムカッとする。

「逃げます。」

そう言ってバスルームに行った。
何も拾ってこなかった。裸で歩くのに堂々とするのもこそこそするのも恥ずかしい。
取りあえず走った。
背後でドアが閉まらない内に笑い声が聞こえた。

悔しい!

バスルームに入り鍵をして、さっそく化粧品をバラバラと出して小さい文字を読んだ。
間違いなかった。

なんだ、良かった。

悔しいけどそう思った。
適当に掴んでシャワーを浴びた。
でもちょっとは使って減ってた。
試したんだ。
なんだかそんなのは想像できないけど。

戸棚を開けてバスタオルを引っ張り出して借りた。
遠慮のない私。
隠し事がないならいいだろう。

髪の毛を乾かして、リビングに戻った。
お水をもらって飲む。自分の家のように自由にしてる。
バスタオルを巻いたままの姿で、寝室に顔を出してバスルームが空いたことと、お水のお礼を言う。

礼節はきちんとしてる。
順番はまあまあでいい。

ベッドから歩いて堂々とそのままで来る。
アホだ。変態でもあるアホだ。

急いでリビングに戻り、遠くから見送る。
こっちを見てにやりと笑う変態。

恥じらい知らずのオジサンめ。

そう言いたいけど平手打ちした時も引き締まり具合は綺麗なくらいだった。

取りあえず自分の服を寄せて軽く畳んでおく。
下着を着るべきか、どうしよう。

明日もこれを着るし。
まあ、いいや。

携帯を見ても報告を求める、もしくは心配する連絡はなかった。
和央の予想通りの展開になってるんだろう。
ちょっとだけ詳しく教えたい。
いろいろあった気がする。
まず、一目ぼれした瞬間はしっかり記憶鮮明らしい事。
とにかく一目惚れ、その一言だったこと。
あとはちょろい事・・・・・ってどんなエピソードをつけて教えたらいい?
ああ、弟とはいえ、あまり披露できる話はないらしい。
だいたい姉のそんな事、具体的には聞きたくないだろう。
結果だけで満足すると思う。

明日の夜でいいだろう。


シャワーを浴びて歩いてきた。
ちゃんとバスタオルを腰に巻いてる。
安心してたのに、後ろに立って私のバスタオルを捲った。
ビックリしてまた悲鳴が出る。

「きゃあ、・・・・ど変態。」

「逃げるって言うから。それに手形プリントのお返しがちゃんとついてるか確認したかった。ちょっと優しすぎたらしい。消えてた。」

「いきなり、止めてください。」

「わかった、今度からちゃんと言うから、逃げるなら逃げて、諦めるなら早々に白旗上げろ。」

逃げますなんて、何で私は言ったんだ。
変な勝負を挑んだみたいじゃない。
逃げれるわけないし。

お水を飲んでまた寝室に戻った。
さすがに寝てもいい時間だと思う。
バスタオルは湿ってるからと言って取り上げられた。
シーツの中でごそごそと外して渡した。
当然持って行って帰って来た時は裸族だった。
それはお互い様だけど・・・・。

何で恥ずかしそうじゃない?

横になって聞いた。

「見せたいタイプなんですか?元カノたちに褒められて自信があるとか?」

「なくはない。」

「ジムに行って鍛えてるとか?」

「日常生活でちゃんと出来る。電車に乗ってても、階段でも、席に座ってても。」

「なるほど。」

ナルシスト・・・・・か?

「お前だって自信持っていいぞ。何と言ってもはちきれそうに若い。」

「アホエロ。」

「褒めたんだけどな。」

「それはどうも。若いだけじゃ褒め言葉になってないです。さすがに十歳上だと若いとは褒めてもらえるでしょう。」

「具体的に褒めてもいいぞ。時間かかるけど、聞きたいなら一つづつ言ってやろうか?明るい所で見たらもっと褒められるし。」

「いいです。」

明るい所は勘弁だ。

「本当に一目ぼれしたのがもったいないくらい。一つずつ小さなことも、もっと小出しに好きになりたかった。そうしたら新しい発見があるたびに楽しめたのに。」

どんな考え方?

「昨日から一気に発見し過ぎだ。じっくり玉ねぎを一枚づつ剥がすようにゆっくりじっくり楽しみたかった。惜しい。」

そう言いながら首に吸い付いてくる。

玉ねぎ・・・・・、もっといい例えはない?

バラの花びらを一枚づつめくる様にとか。
玉ねぎなんて、どんな例えよ。
それにバラの方がたくさん花びらがあると思うけど?そのくらいの数が必要でしょう?
センスのなさを証明したか、本当にバラには例えられそうにない女か・・・まあ、いい。

今は忙しいから。


「我慢できない。」

「・・・・・。」

「お互いに無理だな。」

レベルが違う。
変態と一緒にされたくない。
そう思ったのは丸々と見破られたらしい。
じっとりと睨まれるように見られて、しばらく無言で勝負した。

「無理です。」

どうしてもそう言わせたかったらしい。
負けてやったのだ。
ちょろい奴だったのを思い出したから。
さっさと同意してやればわかりやすく機嫌がよくなったのに。
ヘラヘラと喜ぶ顔を見てほくそ笑めたのに。

時々間違う。
時々学習したことを忘れる。

まだまだ、要指導らしいから。

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