うるさいアドバイスは嫌味としか思えません。意気地なしのアホとののしった相手はずっと年上の先輩です。
17いろいろあった週末が終わった
想像できるくらいのバタバタとした朝、お腹が空いて起きだした後の事。
着替えてメイクもして、ご飯を食べに行こうと外に出た。
何と長い週末だ。理解を超えて、ついでに体力も超えた。

だいたい朝、バスタオルを巻いて化粧をしようとしたら気がついた。
マーキングしたと言ったけど、隠せないじゃないか。

何で首元にこんなに、わざとか?

ハンカチをスカーフのように巻こうとしても隠せなかった。
しょうがないので、髪の毛を下ろして、不自然に広げた。
食事をするのに邪魔だと思うけど、前にもたらす。

スッキリして着替えてきた『自称ワイルドな奴』に言った。

「どうして見えるところに痕をつけたんですか?」

「見えないところもつけたけど。」

「そうじゃなくて・・・・・明日残ってたらどうするんですか?」

「しれっとしてたら、誰も気がつかないかもしれないぞ。」

「気がついても指摘する人はいないです。皆大人です。ああ~って心で思うだけです。それじゃあ誰が思ってるか分からないから、余計に気になるじゃないですか。」

「そんな想像するかなあ?色気ないし、蚊に刺されたとか、アレルギーとか思われるかもしれないぞ。大体歯型とどっちが誤魔化せないと思ってるんだ?」

首を見る、無いじゃないか、歯型なんて。

「消えてます。ちゃんと甘噛みでしたから。」

「まあ、大丈夫だろう。気にならないくらいには薄くなるさ。」

「二度と止めてください。せめて・・・・・。」

「はいはい。そんなに欲しいなら、見えないところにするする。いくぞ。」


本当にそんなバタバタがあった。


「何、荷物持ってる?また戻ってくるぞ。」

そりゃ、あんたはね。

「そのまま帰れます。」

「駅とは逆だぞ。」

早く言え!

いったん荷物を下ろした。
でも別にお泊りのつもりで来てないから、小さなバッグ一つだし。

「余分なものは入ってないです。」

そう言って持つ。

「財布もいらないし、あと何がいるんだ?」

「いろいろあるんです。」

そう言いながら玄関に行き、外に出る。

鍵をかけた玄関で隣を見る。
流石にデジャビュー感なし。
初めて一緒に外に出た。

向こうが何を思ったかはわからないけど。
ちょっとだけ視線が合った。

やはり二人きりでエレベーターに乗り、下りる。

どんよりとした雲が低くある。
雨が降るかも、早く帰ったほうがいい。

荷物を持ってきたのは正解だった。

遠いのだ。

会社の駅を挟むと本当に反対、それだけで遠くも感じる。

先を歩く背中を見て歩く。
財布と鍵がポケットにある。
手ぶらの手がぶらぶらとしている。

手を繋いだら喜ぶたろうか、嫌がるだろうか?

横に並ぶより先に手を取った。
立ち止まられて振り返られた。

表情からはどちらとも判断できない。
とりあえず振り払いはされなかったが。

「着いたけど。」

ん?

たしかにそこはレストランの前。
こじんまりとした家族でやっていそうな
レストランの前、本当にドアの前だった。

「どうしても手を繋いで入りたいというのなら。」

にやりと笑われた。

完全にタイミングが悪かった。
でも知らない。ほとんどマンションの裏じゃない!
こんなに近いなんて思わない。

荷物はいらないと言ったあとに、すぐ裏だぞと言えたはずなのに。
駅とは逆とか言って、普通もっと歩くと思うじゃん。

つないだ手は私が振り払った。

食事をしながらも気になって仕方なく、つい髪に手をやっては笑われて、癖で髪を払っては指さされて。
・・・・疲れた。

軽いランチのコースを食べて、お酒も飲んでしまって、楽しんだ。
最後までバッグを開ける事など一度もなく。

駅に向かおうと思ってたのに、帰りはきっちりと手をつながれて部屋まで来てしまった。
過去の三回、入るときにはあんなにごねたのに、今回はすんなり入った。

「ご馳走様でした。美味しかったです。」

お店を出たところでそう言ったけど、また言った。

「そうだったな。またいつでも行けるから。」

「何度か行ったことあるんですか?」

「ない。あるのは知ってたけど、初めてだった。」

「近いし、いいですね。」

「気に入ったんならよかった。」

普通の笑顔だった。

このたまの笑顔が・・・・好きかも。

ソファに座る石橋さんを見ながら思った。

窓から見える空はやっぱり曇天だった。

「雨が降りそうだし、帰ります。うっかりついてきてしまいましたが。」

「まあ、そうだな。」

外を見て言う。

「送っていく。ついでにビールを買わないとな。」

一緒に立ち上がり、玄関に向かう。

むしろ何で帰ってきたんだろう・・・・。

駅まで送ってもらって別れた。
改札を入って振り向くと、既に背中は歩き出していた。

ちょっとだけがっかりしたけど、言えない。

体も頭も心も疲れてあっという間に月曜日になった。
すごくよく眠れた。
結局心配するほどもなく綺麗に痕跡はなくなった月曜日。

何か忘れてる気がするけど、思い出せない。
長い週末は終わった。
普通に普通の時が戻ってきた気がする。

仕事仕事。

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