うるさいアドバイスは嫌味としか思えません。意気地なしのアホとののしった相手はずっと年上の先輩です。
18忘れていた報告、ラブ&ピース
「金曜日、天野さん、大丈夫だった?」

「うん、もちろん。和島君こそ、ふらふらだったよ。」

「うん、迫田に付き合ってもらってファミレスで休んでから帰った。」

「・・・良かったね。」

「あ、迫田、悪かったな。」

「いいよ。奢ってもらったし、天野さんは大丈夫だった?」

「もちろん。」

「特に週末も何もなく?」

なに・・・・?

「特別には。迫田君は?何してたの?」

普通に話せてると思いたい。迫田君は何かの気配を感じてたとか?
改札で手を振る私の向こうに、石橋さんが見えていたとか?


今日は一日社内だった。
今、受け持ちは三件。
今度から順番に一人担当になる。
もちろん、まだまだ嵯峨野さんにはお世話になるだろう。
相談したりもしたいし。

外の予定にあわせて食事をとることもあった。
1人担当になると、一人でとることになりそうで、それは寂しいことだ。



珍しく女性の先輩三人も揃っていて、ランチに誘われて外に出た。

「ねえ、美弥ちゃんに似た彼女の心当たりはないって。」

それが何の話か、すっかり忘れてたふりをした・・・つもり。

「石橋さん、やっぱり嵯峨野君が心配みたいだよね。ついでに美弥ちゃんのこともね。」

「何でですか?心配ならもっと優しくしてくれます。」

「そうなんだよね、でも、気のせいかな?今日もよく美弥ちゃんのほうを見てたんだよね。」


何、悟られてるの!!
脇が甘すぎる。


「また何か言われたら嫌なので避け続けます。」

「それも可哀想だったりして。」

そうなのだ、今まで話題に出たことはなかったと思う。
あったらさり気なく聞いたと思う。

私を地味にしながら、あいつもそうとう地味じゃないか!
ずっと奥の隅っこの席に地味に居ればいい。視線はずっと壁に向いてればいい。

「美弥ちゃん、顔が怖いよ!大丈夫?」

あぁ、ちょっと思い出すと、いけない、いけない。

「でも石橋さんね・・・・、最初はね、あんなに誘われてたのに、誰も二度目はなかった気がする。」

「本当にあっさりとブームが去った感じだったよね。」

「しょうがないよ、こっぴどくっていうくらいハッキリ跳ねつけてたらしいから、好意が憎悪に変わった子もいたと思う。」

「好き嫌いがハッキリしてるのかな?」

「あ、あぁゴメンね。美弥ちゃんのは多分気のせい。嵯峨野君のせいだから。」

話の流れで謝られたが、今の話は・・・・?

「いいです。でも石橋さん、人気あったんですか?」

珍事ともいえる現象があった?

「入社した時はね。四月の新人に混ざってても、転職だったし、年上大人感で余裕あってゆったり仕事してたし、やっぱり頭はいいし、器用そうだよね。」

「フレッシュな新人に混じってたから余計にスマートな大人感あって、一部の女子が騒いだんだよ。」

いやいやいや、想像できないです。
それに全然違います。
実は、と教えたいくらい、私にアホ呼ばわりされてるんですから。

でも、本当に人気あった?
・・・・信じがたい。

だいたい口は悪いし、肝心なことは言い出せないし、上手に会話ができないし、自分勝手だし、あといろいろ・・・・、しかも、ちょろい。
スマートな大人とは程遠い。
ふぅ〜ん。

話題はそのあたりで変わった。
結論は人気があったけど誰も相手にしてないらしい。
社内にはいないって言ってたし。

ただ、やっぱり社内のあれこれは噂になってしまうんだと、つくづく思った。
ほんとに気を引き締めてほしい。


そう、ふと思い出した。
昨日やり忘れてた大切なこと。

なんで忘れてたんだろう。
あんなに相談してたのに。

気がついたら三人の先輩に可哀想な目で見られてた。
いえいえ、大丈夫です。
全然大丈夫です!
考えていたのは別のことです!

一つ内緒のことを増やすとこんなに会話が窮屈になるとは。
この間酔って愚痴らなけれは話題にも上らなかっただろうに。
そしたら今日も話題には上がらなくて。
モテ伝説も知らずにいたけど。


「美弥ちゃん、元気だそう!」

「今度飲みに行こう!他の課の人とは付き合いはない?」

「はい、同期の女の子とランチを時たま。飲みに行くのは珍しいです。」

しょうがない、皆プライベートが充実してる子たちなのだ。
私は一人寂しく男の同期に混じって飲んでたんだから。

「せっかく残業も少ないんだから、夕方からの時間を楽しもう!」

「どんな人が好み?」

そんな話をしながら戻って。

「じゃあ、美弥ちゃんのために何人か見繕うから、今度楽しく飲もう。ちょっとだけ年上になるけどね。」

「楽しみ!」

あああっ、タイミングが悪いです、睨まれてます。

聞かれてた?

地味にしろ、目立つな、褒められるなとかうるさい奴なのにどこから聞いてた?
絶対なんか言われる。

とりあえずこの場は無視してトイレに行った。

昼に我慢できなくなったらしい、連絡が来た。
ちょうどランチ終わりの時に。

『どうなったの?ラブ&ピースだよね。』

『ごめん、ちょっと忘れてた。でも、そうです。今夜またね。』

取りあえず返信した。
そう、忘れてた。連絡するつもりだったのに。
でも会社ではできない、『夜に。』

もう一人、明らかに不機嫌そうな連絡が来た。
『夜に。』
あっさりと返事をして終わらせた。


嵯峨野さんにチケットをもらった。
イベントチケットだった。
週末のイベントで美味しいもののブースが集合、しかも屋内。

「嵯峨野さんデートは?」

「もう他のとこに行くって決めてるから、提案してみたけど変更無しって言われた。」

「行かなかったら別にいいんだ。もらったものなんだ。くれた人も行かないからって譲ってくれたんだから。」

和央が行くかなぁ。

「弟に聞いてみます。」

入場料が無料になり、金券と替えれるらしい。浮くのは1500円。
大学生なら行くだろうか?
QRコードを送れば使えるから、渡さなくていい。

午後の仕事を普通にした。
確かに残業は少ない。
打ち合わせのあとは戻って来て書類を作ることもあるけど、そうそう急ぐほどでもないことが多く、遅いアポの後は直帰できる。
デートもできる、飲みにも行ってるから、その相手が変わっても全然おかしくない。

先輩が喜んで飲みに連れて行ってくれると言っていた。
どうだろう?
女子だけならいいです。うれしいです。行きたいです。

男性相手はちょっと無理かもしれません。
いつ言うべきか分からない。

厄介な先輩が一人からんでくるから。
本当に面倒なんです。

『随分分かりやすく無視してくれてるよな。自分が可哀想になる。しかも、先輩に男を紹介してもらう予定があるとかないとか、いいなあ、のびのびと楽しそうに仕事出来てて。』

こんな恨み言を後輩に送ってくる奴です。
『スマートな男性』なんて明らかに皆の方が騙されてます。
もっと素直にです。『行くな。』って言えないのか?
言えないんだろうなあ。
あんなにうじうじとして話もできなかったから。
なんなんだ?本当にトラウマでもあるんじゃないかと思ってしまう。
こっぴどく振られたことがあるとか?
それは初恋レベルまでさかのぼるかもしれないけど。
絶対何かあるんだろう。
だいたい好意のある子に意地悪するなんて小学生かってレベルだし。
男らしくびしっとして欲しいのに。

つい私の方がイラッとして可愛くない態度に出てしまう。
私だってもっと普通だったのに。
なんでだろう?
それはあっちが悪い。そう思ってるけど。

夜に和央に相談してみよう。
男の意見を聞きたい。

時間が少し過ぎて仕事が終わり、嵯峨野さんと明日の予定を確認し合って仕事を終わりにした。
そういえば今日は少しだけ目元に明るい色をのせてみたんだけど、誰も何も言ってくれなかった。
そんな私の変化なんて誰も気にしてないらしい。

別に期待はしてないですけど・・・・。

部屋で冷蔵庫の中のヨーグルトを食べる。
あんまり賞味期限まで長くない。
週末用に買ってたのに食べなかったから、せっせと食べる。


自分の部屋がすごく狭く感じる。
あの部屋は広い上に、ちょっと高くて景色が良くて、物もないし。
ずっと広く感じられた。


何してるんだろう?

あんまり先に帰ってるイメージはない。
なんだかんだいつも残業してたような気がする。
気にしてなかったから、どのくらいの企画を抱えてるのかも知らない。

取りあえず和央に連絡を取った。

『昨日はごめんね。いろいろあってすっかり忘れてました。』

『ほとんど喧嘩、売り言葉に買い言葉で、ようやく結論が出ました。しばらくお付き合いすることになりそうです。今日先輩達が話してるのを聞いたんだけど、入社した時は結構アプローチされたみたい。はっきり断ったらしいけど、本人も社内で付き合った人はいないって言ってた。』

『会社では今まで通り完全無視で過ごしました。バレたら大変だから。あっという間に噂は広がりそう。』

『ねえ、本当に意地悪な感じが嫌味ったらしくて、つい私もムキになるんだけど、どうしたらいいと思う?どっちが悪い?』

返事がない。
バイトか、遊んでるか。
ヨーグルトの食事を終えて歯磨きをして返事を待とうと思ったら、来た。

『惚気はお終い?』

見てたの?読んではいなかったけど。
どこが惚気に見えるのか分からない自分の文章を読み返す。

『報告と悩み相談です。』

『とりあえずおめでとう。あとの内容は年上の彼氏にどうぞ。』

そう続いただけだった。
そんな・・・・。

『ねえ、何で突き放すのよ。』

『だって分からないし。僕じゃなくてもいいじゃない?本人に聞いてみれば?』

ちょっと違う人の意見を聴きたかったのに、冷たい奴め。
・・・・あっ。

『ねえ、週末美味しいものイベントのチケットもらったの。行く?』

『姉ちゃんがデートに使わないなら友達と行くよ。じゃあね。』

あっさり終わった。
忙しかった?

テーブルに出した二枚のチケット。
これ一枚で4人は入れるから、8人分にはなる。
もちろんデートには使わないと思う。
そんなに食べるものを楽しむ方でもないと思うし、人ごみに喜んでいく方でもないと思う。
QRコードと、ナンバーを送って、チケットの写真も一応送ってみた。

しばらくして確認したらしく『友達誘う。ありがとう。』そう返事が来た。
誰かの役にたったなら良かった。
明日嵯峨野さんにお礼を言おう。

さて、もう一件のほうは。
もう帰って来てるのだろうか?
それすら分からない。
もう少し寝る前くらいでもいいか。
忘れたらうるさそうだから、ちゃんと連絡はするから。

携帯にそう言って、テレビを見ることにした。
適当に見ていたチャンネルをつけたまま、続く番組も面白くて、一時間番組だと思ってたら、何だか特別に二時間だったらしい。終わりの頃に、気がついたら思ったより遅くなっていた。


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