美しい敵国の将軍は私を捕らえ不器用に寵愛する。

白起将軍

それからしばらくして、魏冄は辺境国の制圧を命じられた。
もっともその勢力は弱小であり、秦との国力の差は明白だった。
つまり、この戦は将来の宰相として期待される魏冄に箔をつけるためのものであった。

魏冄は戦の責任者に命じられるとすぐに白起を将軍に任命した。
他の者たちは皆、不満を抱いたが、勢いの凄い魏冄に歯向かうのは得策で無いとして、不満を口に出す者は居なかった。
魏冄と白起は破竹の勢いで、辺境国の討伐を終えた。

しかし、そこで、緊急の情報が伝わってきた。
何と、匈奴という異民族の国家が突然秦に侵攻を仕掛けてきたのである。
彼らは遊牧民であり、食料が不足すると中原の国家に攻めてきて略奪の限りを尽くす。
そして、彼らは馬を乗りこなし、戦においては無敵の強さを誇っているため何時も、秦は匈奴に大敗を喫していた。

魏冄は白起に言った。
「この辺境国を放棄しよう。この周辺を好き放題、略奪すれば満足して去って行くかもしれない」

白起は言った。
「それではこの国の民の生活はぼろぼろになるぞ。良いのか?」

魏冄は言った。
「それはしょうがない。出来ないことまでやろうとして、出来る事まで失うことは避けるべきだ。」

白起は魏冄の言葉に返事をせずに陣営を出て行った。
「全く。略奪を禁止したり、敵国の民を守ろうとしたり、噂とは正反対の男だな。」
魏冄は白起が落ち込んでいる様子だったと感じて、ため息をついた。

「まあ。焦っても仕方ない。少し眠るか。」

そしてしばらくの仮眠に入ったのだった。
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