春待ち
偶然
一通り話をした後、僕等はどちらからともなく帰る仕種を見せた。外を見るともうすっかり薄暗くなっていた。相変わらずタクシーは何台もその力を持て余していた。
「帰ろっか」
恵がひと句切つけるという感じで呟いた。僕は既に上着を羽織っていたので「そうだね」とだけ返し、恵を待つでもなく先にドアを押した。
「待ってよ」
恵の声が聞こえるのと同時に、僕は外の異変に気付いた。
「雨…じゃない?」
恵は漆黒の空を見上げながら言った。

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