爽やかくんの為せるワザ
「意味分かんない……。フラれたんだったら次行けばいいのに。何が良いんだか」
「うーん……少なくとも、珠姫ちゃんは君みたいに人のこと悪く言ったりはしないよ」
困ったような笑顔を元カノさんに向けて話している藍くん。
元カノさんはその言葉にうっと口をつぐむ。
「別れる要因は俺だったんだろうし、そこはほんとにごめん。
……でも、珠姫ちゃんのこと悪く言うのはやめて欲しい」
「は、はぁ?何良い奴ぶってんの」
「俺のことはなんとでも言っていいけど、俺の大切な人を傷付けるようなことはちょっと許せないかな」
だからお願い、と藍くんは顔を指で掻きながら笑うのだった。
そんな藍くんを呆然と見つめたまま、私の頬には温かい涙が伝っていく。
藍くんがどれだけ私のことを想ってくれていたのかが、今の言葉で分かる気がした。
……というか、直で伝わった。
藍くんの誠実さと、優しさと、愛しさが。
やっぱり私、藍くんが好き……。
言葉では言い表せないくらい、藍くんのことを心から想ってる。
ほんとに……なんで私、こんなに優しい藍くんから逃げちゃったんだろう。
なんで傷付けちゃったんだろう。
「〜〜っ、あたしにはそんなこと1回も言ってくれたことないのに!」
すると、元カノさんは突然藍くんの両頬を手で押さえた。
びっくりしたのは私よりも藍くんだろう。
そして元カノさんはキッと藍くんを見つめて、そのままぐっと顔を近付けた。
あ!!
「ダメー!!」
私は咄嗟に立ち上がって大声を上げた。
当たりそうなほど顔の距離が縮まっていた2人は、反射的にこちらを振り返る。
あ、危なかった……。
絶対今……元カノさんキスしようとしてたよね……。