爽やかくんの為せるワザ
「え、珠姫ちゃん!?」
「なんであんたが……」
藍くんは慌てて元カノさんから離れて私に体を向ける。
元カノさんは眉間にシワを寄せてじっと私を睨んでいて。
私はそんな2人のもとへ駆け寄った。
「ごめんなさい!藍くんは駄目ですっ」
「何よ駄目って……。ていうかあんた、ずっといたの?」
「……う、うん。勝手にすみません……」
「盗み聞きとか趣味悪。しかも邪魔しに来てるし。キモ」
元カノさんは私に敵意たっぷりな視線を送ってくる。
私は藍くんの前に立ちはだかって、なんとか目を逸らさずに元カノさんを見つめ続けた。
……こ、怖いっ。
けど、負けたくない!
「キモくてもいい……!でも、藍くんには何もしないで……下さい」
「うっざ。なんであたしが悪者みたいになってんの?」
「そ、そういうわけじゃ……」
「ああくっそムカつく!もう黙れっ!」
すると、目の前の元カノさんは怒りに満ちた表情で片手を振り上げた。
私は身の危険を感じて咄嗟に目を瞑る。
「駄目だろ」
ビンタする音ではなく、聞こえてきたのは頭上からの藍くんの静かな声。
恐る恐る目を開けてみると、目の前では藍くんが元カノさんの腕を掴んで向かい合っていた。
……藍くん。
「誰を叩こうとしてるんだよ」
「……チッ」
いつもと違う雰囲気の藍くんに、元カノさんは少し後ずさる。
……もしかして藍くん、怒ってる?
声のトーンがいつもより低い。
さすがの元カノさんもさっきまでの怒りが収まってる様子。