冷たいキスなら許さない
「こんな時のあの二人には何を言っても無駄だ。諦めろ。とりあえずメシだ。早くしないとお前の分も食っちまうぞ」

私の口の前にひらひらと海苔が舞う。
ああ、これは櫂の大叔母さまから頂いたあの高級海苔じゃないか。
怒りを一旦置いて、奪うようにパクっと食いついた。

ああ美味しい。

西京漬けだけじゃない。お味噌汁に白いご飯。海苔はもちろん、野沢菜漬けも最高だ。
ご機嫌で勘違い続行中のお二人のことをとりあえず棚上げにして朝食に集中することにした。
私の横で社長も黙々と食べている。

お父さんとお母さんは二人でなにやら話をしているけれど、聞こえないフリ。

「この夫婦のことはほっといて出勤するぞ」
先に食べ終わった社長が立ち上がる。

「え?社長、長野に戻らなくていいんですか?」
鮭の最後のひとくちを飲み込んで尋ねた。
本来ならこれから長野に戻ることになっていたはず。

「とりあえずこっちに出勤。夕方までに移動する予定」
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