冷たいキスなら許さない
でも、今は本当にそこに触れて欲しくない。
自分でもどう対応していいのかわからないんだから。

「プライベート?灯里の?」

「失礼ですよ、社長。仕事じゃないなら切りますからね」

「あ、待て、灯里」

「今から例の書類まとめなきゃいけないんですよ。忙しいの察してください。
だいたい社長が度々そっちに私を呼ぶから私の仕事が進まないんじゃないですか。
もうちょっとそっちの配慮をしてくださいよっ」
そう言って電話を切ってやった。

社長と話をしていると次第に落ち着く自分を確認する。

なんだかんだ言っても大和社長には包容力があって、社長といると素に近い自分を出せる。
よその会社じゃこんな事無理だろうけど。
一緒に過ごす時間が長くなるに従って社長に対して言いたいことが言えるようになってきた。

櫂と再会してからこの数時間、平常心を作ることができない。
心がざわつき胸に痛みが走る。

できることならここから逃げ出してしまいた。車を走らせて長野に帰りたい。
長野の会社で大和社長と言い合いしてメグミちゃんの淹れてくれたお茶を飲んでーーーあの日常に戻りたい。


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