千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
それからというものの、神羅は毎日朝方に戻って来る黎のために三食料理を作り、邪魔にならない程度に傍に寄り添い、眠りを妨げず、黎が心安らげる状態にしようと心を尽くした。
黎は何度も神羅に気負わないでほしいと言い続けてきたが神羅は聞かず、呆れ返ってどうしようかと思っている時――
突然神羅が倒れた。
「神羅…っ!どう…どうしたんだ!?何が…何が…!」
「うぅ…っ!」
口元を押さえて呻く神羅に血の気が引いた黎は、すぐさま神羅を抱き上げて床に横たえさせると、妖の薬を呼んで診察をしてもらった。
その間――神羅が生前血を吐いた時のことを思い出して恐怖で身体の震えが止まらず、狼や雨竜がおろおろしながら黎に声をかけられずにいると、薬師が口を開いた。
「おめでたですね」
「…え?」
「ご懐妊されているのに心労が祟ったんでしょうなあ。しばらくは安静に休まれますように」
煎じた薬を置いた薬師が部屋を去ると、黎は腰を浮かして神羅の細い手を握った。
「神羅…お前…だから言ったじゃないか!傍に居てくれればいいと!」
「そ、そんなことを言われても無理です!お主がつらい思いをしながら戦地に赴いているのに!」
「つらい思いなんかしていない!腹に子が居るのに流れていたらどうするんだ!」
…めでたいはずなのに口論に発展してしまって睨み合っていると、雨竜が鎌首をもたげて金色の目を輝かせた。
「卵!卵だ!美月が卵を産むんだろ!?俺あっためる!美月!いつ産むの!?」
それではっと我に返った黎は、神羅を興奮させてはいけないと反省して、子ができた実感がじわじわ沸いてきて唇を震わせた。
「神羅…身体を労わらないと。何度も言うようだが俺に気を遣うな。俺は本当に傍に居てくれるだけでいいんだ」
「黎…はい…。実はちょっと前から悪阻のようなものがあって…」
「!それを早く言え!」
ついまた怒ってしまって、己を落ち着かせるために一旦部屋を離れた。
「俺に子が…」
胸が熱くなった。
生前神羅が妊娠した時傍に居てやれなかったことをずっと悔いていた黎は、今度こそは思いを胸に秘めて部屋に戻った。
黎は何度も神羅に気負わないでほしいと言い続けてきたが神羅は聞かず、呆れ返ってどうしようかと思っている時――
突然神羅が倒れた。
「神羅…っ!どう…どうしたんだ!?何が…何が…!」
「うぅ…っ!」
口元を押さえて呻く神羅に血の気が引いた黎は、すぐさま神羅を抱き上げて床に横たえさせると、妖の薬を呼んで診察をしてもらった。
その間――神羅が生前血を吐いた時のことを思い出して恐怖で身体の震えが止まらず、狼や雨竜がおろおろしながら黎に声をかけられずにいると、薬師が口を開いた。
「おめでたですね」
「…え?」
「ご懐妊されているのに心労が祟ったんでしょうなあ。しばらくは安静に休まれますように」
煎じた薬を置いた薬師が部屋を去ると、黎は腰を浮かして神羅の細い手を握った。
「神羅…お前…だから言ったじゃないか!傍に居てくれればいいと!」
「そ、そんなことを言われても無理です!お主がつらい思いをしながら戦地に赴いているのに!」
「つらい思いなんかしていない!腹に子が居るのに流れていたらどうするんだ!」
…めでたいはずなのに口論に発展してしまって睨み合っていると、雨竜が鎌首をもたげて金色の目を輝かせた。
「卵!卵だ!美月が卵を産むんだろ!?俺あっためる!美月!いつ産むの!?」
それではっと我に返った黎は、神羅を興奮させてはいけないと反省して、子ができた実感がじわじわ沸いてきて唇を震わせた。
「神羅…身体を労わらないと。何度も言うようだが俺に気を遣うな。俺は本当に傍に居てくれるだけでいいんだ」
「黎…はい…。実はちょっと前から悪阻のようなものがあって…」
「!それを早く言え!」
ついまた怒ってしまって、己を落ち着かせるために一旦部屋を離れた。
「俺に子が…」
胸が熱くなった。
生前神羅が妊娠した時傍に居てやれなかったことをずっと悔いていた黎は、今度こそは思いを胸に秘めて部屋に戻った。