千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
「黎…この子…!」


「ああ…!桂と…桂と同じ場所に…鎖骨の所に黒子がある…!」


――産まれたのはもちろん男子で、指を吸っている赤子をじいっと凝視したふたりは、かつてふたりの間に産まれた桂にもまた同じ位置に黒子があるのを知って驚愕していた。


それまでは、ただの可能性だった。

桂がまた我が子として産まれてきてくれるのでは、という自分たちの一縷の願い…そうだと思っていた。


だが実際桂と同じ場所に黒子があり、そして桂とそっくりな顔をした子が産まれてきたことで、黎と神羅はこの子は桂の生まれ変わりだという確信を得た。


「ああ、こんなことがあっていいと言うの…!?」


「神羅…!この子は桂だ…!お前もそう思うだろう!?」


「そうです…この子は、桂!また私たちの元に産まれて来てくれた!」


胸元をはだけさせて抱くと、すぐ乳を含んだ赤子に無限の母性を感じた神羅は、出産した疲れも忘れて黎に身体を起こしてもらった。

だが黎はただただ無言で、神羅が首を捩じって黎の顔を見ると――黎は感極まっていて、神羅を強く抱きしめた。


「黎…痛いわ…」


「お前と…お前と桂にまた会えた…。これは僥倖以上の巡り合わせだ…!俺は、なんて幸せ者なんだろう…」


――後片付けの始末をした産婆がそっと部屋を離れると、黎は用意していた産湯に神羅とふたりで赤子を抱き上げて湯に漬けた。


気持ちよさそうにばたばた足を動かした赤子が可愛くて、無限に見ていられると打ち明けると、神羅も同じだと言ってふたりで笑った。


「黎…この子は前世での記憶を持っているでしょうか」


「そうだな…あった方がいいが、なくてもいい。あれにとってつらい思い出でしかないのなら思い出さない方がいい。それはきっと、桂が選んで産まれて来ただろう」


「そうですね…ふふ、そうね」


丁寧に身体を拭いて、また乳を含ませた。

我が子は愛らしく、ふたりで何度も呼びかけながら名を呼び続けた。
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