千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
種族を超えた許されない恋の苦しさを、黎と神羅も身を以て痛感していた。

桂が苦しんで苦しんで迎えた自死という結末――次こそは幸せになってほしいという親心は隠しようがなく、また諸たちも長年まともに会話もできなかった娘が太陽のように輝く笑顔で桂を見つめている様を見て、反対のしようがなかった。


「桂…このまま私をあなたの元へ連れて行って」


「ん、俺もそのつもりだけど…父様たちはなんて言うかな」


「俺たちは構わないぞ。問題は諸たち…」


「いえ、私たちのことはお気になさらず。桂様が娘を救って下さったのです。このままお連れ下さい」


諸が頭を下げた瞬間、明日香は飛び上がって喜んで桂の首に抱き着いた。

もう何の障害が無くなると、黎は父として諸たちと今後の話を少しすると、庭でごろんごろんしていた狼と雨竜を呼び寄せた。


「桂、お前は娘さんと狼に乗って行け。俺は神羅と雨竜に乗る」


「え!?良夜、俺に乗るの!?じゃあおっきくなるから待って!」


黎の肩に乗るほど小さかった雨竜が見たこともないような体長の大蛇らしきものになると、諸は恐れ慄きながら腰を抜かした。


「雨竜、お前がついて来てくれたから息子は意中の女を手に入れたぞ」


「へへっ、九頭竜は縁結びの象徴だからな!桂!兄ちゃんをもっと尊敬してもいいんだぞ!」


「するする。屋敷に戻ったら束子で磨いてやるから」


明日香は諸と母に深く頭を下げてその手を握った。


「すぐにお呼びします。お父様…お母様…今までありがとう」


閉じこもっていた日々が報われる。

記憶が全て戻り、種族も同じとなった今、何の障害もなくなった明日香は、桂の背中にしっかりしがみ付いて幽玄町に向かった。

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