千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
今ここで真実を話してしまえばきっと話の展開についていけず、困惑させてしまうだけだと考えた黎は、桂と目配せして一瞬で分かり合うと、誰もがうっとりする微笑を浮かべた。


「これからの話というのは…」


「いやなに、俺の息子が娘さんを気に入ったようなので、嫁にどうかという話だ」


「え…ええっ!?」


――鬼頭家は謂れのある家だが古の時代から存在する旧家の名家であり、おいそれと簡単に嫁げる家ではない。

一応自分たちも旧家ではあるが到底肩を並べられるものではなく、また一子相伝であることも広く知られているため、諸は言葉を濁した。


「そのお話はありがたいのですが…その…妻は数人選ばれると聞いております。うちの娘はそのうちのひとりということでしょうか」


「桂」


黎が促すと、桂は小さく頷いて隣に座った明日香と見つめ合って笑った。


「俺は明日香さんだけを愛します。だから妻は明日香さんだけです」


「そ、それでお家が存続できるのでしょうか?」


「大丈夫。今度こそは…」


おっと、と口を噤んだ桂を助けるため、今度は明日香が口を開いた。


「お父様…その、出会ったばかりでこんなことを言うのは認めて頂けないでしょうが…私…桂様と添い遂げたいです。私…今度こそは…」


また桂と同じようなことを口走って慌てて口を噤んだ明日香に思わず吹き出した黎は、困惑し続けている諸の手に盃を無理矢理持たせて持参した酒を見せてにっこり。


「そちらの娘さんと俺の息子の意思は確認した。後は親同士の話し合いだな」


鬼頭と縁を繋ぐ機会など滅多にない。

ましてや桂は実直でいてまじめそうでなおかつ柔和な顔立ちをしていて、ふたりが見つめ合う様はこちらが照れるほど熱かった。


「そうですね…これからの話をしましょう」


娘に幸せになってほしい。

息子に幸せになってほしい。


親の願いは、共通していた。
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