千一夜物語-森羅万象、あなたに捧ぐ物語-
良夜の父は優れた統治者だった。

幽玄町は父の代になってさらに飛躍的に発展して、罪を犯した者が集められた町とは到底思えないほど皆が善良になり、産まれてくる子には成人した時幽玄町から出られるという約束が交わされていたが、幽玄町に残る者が後を絶たなくなっていた。


「主さまは人がお好きなのですね」


「ん?いや、そういうわけでないな。まず最初に恐怖を与え、善良に生きれば悪いようにはしないと囁く。つまり飴と鞭の使いようが上手いというだけだな」


「良夜様が当主になられた折には主さまが築いた町を壊さなければよいのですが」


…何故か良夜に辛辣な美月の態度が面白くて、つい酒が進んでしまっていた。

そしてまた良夜も悪口を言われたのにさして腹が立っている様子はなく、ぐびぐび酒を飲み進めていた。


「息子が代を継ぐ時には必ず見せねばならんものがある。それを見ればどれほど捻じれた気性の者でも使命感が生まれ、やり遂げなければならんと思うだろう。良い例が俺なんだが」


「そう…なのですか?」


「これ以上は話せないが、俺が言いたいのは息子と仲良くしてやってくれということだ。以上」


「親父、俺はもう童じゃないんだから、仲良くとか訳の分からないことを言うな」


「息子よ、相談役には手を出してはならんぞ。相談役は全ての種族にとって分け隔てない存在でなければならん。お前が肩入れするのは勝手だが、相談役はお前に肩入れはできん。そういう決まりだからな」


「分かった」


――分かったと即答したものの、良夜の表情はちっとも‟分かった”感じではなかった。

美月はつんとした澄まし顔で実は良夜たちよりも大量の酒をしずしずと飲み続けていて、徳利が空になると良夜にそれを振って見せてにっこり。


「おかわり」
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